何事かと起きてきた大魔道士と娘に事のあらましを説明する。大魔道士は素直に歓迎の意を表した。ところが我が娘の方は不安げな表情のまま私と吟遊詩人の顔を交互に見比べている。私は娘に、吟遊詩人が我々と同様に嘗て魔王の魂を封印した一行の末裔であることに始まり、最前、伝説の鎧を獲得するについて果たした役割についてまで順を追って懇切丁寧に話して聴かせた。それでも娘は不安げな様子を崩さなかったが最終的にはおとうさんがいいって云うのなら、と応諾をしてくれた。
 仲間に加わることが認められるや、吟遊詩人は一刻も早く、それこそいますぐにでもここを出立をしようと力説した。聞けば、伝説の剣の在り処について有力な情報を知っていて、その獲得の為に一刻も早く剣があるとされる場所に向かうべき、ということらしい。
 魔王を討ち果たすのに必要不可欠な伝説の武具。すでにそのうち盾と鎧は手に入れた。更に剣を手に入れることが出来ればすべてが揃う。魔王は着々とその魔の手を伸ばしつつある。げんにこの村でも一人の男性が魔物に取り憑かれた。
 吟遊詩人の云う通りかも知れない。我々はのんびり構えすぎていたのかも知れない。私は今すぐに出立をすることを一同に申し渡した。

 支度を済ませて部屋を出る。宿の受け付けには誰もいない。まだ夜も明けきらぬ時刻であり無理もない。私は受け付けに置かれた宿帳に、夜半に出立をした旨を記載し、その傍らに宿代に相当する金を添えて宿を後にした。
 吟遊詩人は、ここから北東に向かった街に伝説の剣があるとの噂を聞いたと云う。早速、北東に向かって歩き始める。
 見上げれば満天の星空。陽が昇るにはまだ数時間はあるだろう。その所為だろうか、普段であれば先頭を切って歩く我が娘の足取りが重い。無理もないことだ。五歳になったばかりの幼児に深夜の行軍は負担が大きい。私は娘を背中に負ぶった。大魔道士が隣に寄り添い娘に心配ないからゆっくりお休みと声をかけている。やがて娘の寝息が聞こえてきた。
 どのくらい歩いたのだろう。我々が向かう東の空が明るくなってきた。白々と夜が明けていく。
  突然、最後尾を歩いていた吟遊詩人がわぁっ、と大声をあげた。
何事かと振り返り声をかけるとご心配には及びません、と繰り返し云って笑う。成る程、大したことはないようだ。気を取り直し、再び前を向いて歩く。やがて、遥か遠くに街の姿が朧に見えてきた。果たしてそこに伝説の剣はあるのだろうか。
to be continued...