空腹を紛らわせるだけの簡単な食べ物を口に入れてから、武具を外してベッドに体を横たえる。だが神経が昂ぶってる所為かなかなか寝つくことが出来ない。同じ布団の中で気持ち良さそうな寝息を立てて眠っている娘の寝顔を眺めて気を落ち着けようとする。普段であればどんな不眠でもこれで解消が出来るのだが今日ばかりは駄目だ。
衝立を挟んだ隣のベッドからは大魔道士の寝言が聞こえてくる。ハッキリとは判らないがどうやら夢の中で誰かと戦っているようだ。
娘を起こさぬようにと気を配りながらそっとベッドを抜け出す。大魔道士を起こさぬようにと気を配りながら歩を進め伝説の鎧の前に立つ。
我が身に装備する目的で伝説の鎧を手に取る。見るからに頑強な作りでありながらまるで絹織物のように軽い。流石は我が祖先が遺した伝説の武具だ。そう思って装着をしてみるとなんということだ、我が身の自由が全く奪われてしまって身動きが取れない。まるで全身を石膏で塗り固め、更にそこへ膠を塗ったようだ。
伝説の盾と同様、私にはこれを使いこなすだけの経験が積み上げられていないということか。落胆を憶えながら伝説の鎧を脱ぐ。
ところへ誰かが廊下をやってくる気配を感じた。
意識をドアの向こうに集中させる。微かな足音が聞こえてくる。足音は次第に近づいてきてドアの前で止まる。程なくしてノックの音が小さく響く。
「ご末裔様。私です、吟遊詩人です」
ドアを開けると吟遊詩人が切羽詰まった表情で立ち尽くしている。吟遊詩人は私の姿を認めると頭を下げてから一気呵成に話し始める。
「こんな夜分にすみません。どうしてもお願いしたいことがあって失礼を承知でやって参りました。私を皆さんの仲間に加えてください」
突然の申し出に驚いてしまい反応をすることが出来ない。吟遊詩人は更に続けて云う。
「例の魔物を追い払った皆さんのご活躍、あれを目の当たりに致しましてからというもの、心が昂ぶってしまってどうにもなりません。思えば私とて皆さんと同様、嘗て魔王の魂を封印した一行の末裔。その血というものが騒いでしまったのでしょう。皆さんと共に行動をしなければならない、それが私に課せられた運命である、そう思うともう居ても立ってもいられずにやってきてしまいました」
吟遊詩人は深々と頭を下げる。否も応もない。私は吟遊詩人に声をかけた。
「願ってもないことです。魔王を討ち果たすべく共に手を携え闘いましょう」