「これ、どうしようか」大魔道士にそう尋ねる。
「どうしましょう」大魔道士も対応に窮している。
私は続けて云う
「ちょっと頭を整理して順序立てて考えてみよう。まず、我々がここに来た目的は二つ。この家の主に取り憑いた魔物を成敗すること、次にその魔物が奪い取った伝説の鎧を取り返すこと」
「でも、伝説の鎧はここにあります」
「でも、魔物の姿は見当たらない」
「どうしましょう。私、てっきり魔物を倒さなければ伝説の鎧と対面できないと思ってました」
「私もそう思っていた。でも、げんにここにあるんだ、鎧が。明らかに順序がおかしい」
「私、なんだか悲しくなってきました……」
大魔道士は遂にめそめそと泣き出してしまった。だがもうこの涙には慣れっこだ。構わず私は考え続ける。
伝説の鎧を獲得することと魔物を成敗すること、この二つを天秤にかけた場合、優先するべきはやはり鎧の獲得だろう。魔物を倒してからアイテムを獲得するというのはあくまで常識に過ぎない、そんな常識に囚われ目の前にある鎧を放ったらかしにして魔物を探すというのはいささか馬鹿げた行動だ、やはりここは鎧の獲得を優先すべきだ。
そうと決まれば迷うことはない。大魔道士に向かって、先に鎧を手に入れます、と云ってから徐に手を伸ばした。
からんからんからんからん。
私の手が鎧に触れた途端、木の板が打ち合うような大きな音が鳴り響いた。いわゆる鳴子というやつだ。静寂を打ち破るその音に私たちは完全にパニックに陥った。私はぎゃっ、という叫び声に近い大声を上げ、大魔道士はその場にへなへなと座り込み両手で顔を覆って肩を震わせて泣いている。
ところへ突然、上の階へと通じる階段から中年とおぼしき男性が駆け込んできた。
「やっぱりお前は鎧を盗みに来たんだな! 伝説の勇者の末裔が会いに来るなどといって俺を謀りやがって!」
そんな怒声を発しながら男は私たちに向かって突進してくる。男の顔は怒りの為であろうか、暗闇の中でもハッキリと判るほどに紅潮し、その眼はカッと見開かれている。やはり魔物が取り憑いているとしか思われない異様な形相だ。
魔物はすぐそばまで近づいていた。私は態勢を立て直して魔物に正対したが、抜刀して斬り付けるには距離が足らない。魔物は一直線にこちらに向かって駆けてくる。