「伝説の剣? いやぁ……その話は聞いたことがありません」青年は心底から知らないという素振りを示しつつ云った。青年が嘘をつく道理はない。青年が嘘をついているのであれば、わざわざここまで遺体を運ぶはずがない。
 ならばいったい、吟遊詩人は何故、なにを求めて山に入っていったのだろう。
 そうして考え込んでいると、青年が不図、ひとりごちるように云った。「ここは伝説の神父の根拠地ですから、その話題ならば聞いたことがありますが……」
 そういえば若い頃に聞いたことがある。我が祖先とともに魔王を封印した伝説の神父は、当時の王様から、新たに城下町に建造する教会に於いて主教となるよう要請を受けたが断り、民に近いところで生涯を暮らした。では、それがこの街だというのか。
 しかしそうなると益々わからない。これまでの旅路に於いて伝説の武具は悉く、伝説の末裔たちの根拠地にその封印や保管がなされていた。ならばここに剣があるべきなのではないか。
 青年にその旨を尋ねてみるが、やはり伝説の剣についてはなにも知らないという。私は話の接ぎ穂を失った。話が向かう先を失った時に醸成される重たい空気が我々を包む。


 その沈黙を破るように、大魔道士が泣き声のままでぽつりと云う。「この教会の神父さんに頼んで生き返らせることは出来ないのかな」
 そうであった。吟遊詩人の死に動転して終って、そんな簡単なことすら頭に浮かばなかった。そう思ってあらためて教会の中を見てみると、神父の姿がない。シスターの姿も見当たらない。
 「いま、教会の神父は体調を崩していて療養中なんですよ」
 青年が云うには先日来、神父は原因不明の高熱に浮かされていて、今なお一向に回復の気配が伺えないのだという。教会のシスターが付きっきりで看病に当たっているが、その為にいま、この街では神事の一切が滞ってしまっている。
 私は、いまだ泣き顔で居る大魔道士に吟遊詩人を生き返らせるような魔法は使えないのかと尋ねたが大魔道士が得意とするのは攻撃系の呪文で、回復系の魔法については簡単なものしか知らないのだという。
 それでも大魔道士を名乗れるものなのか。と、少しだけ思ったが、いまはそんなことを気にしている場合ではない。吟遊詩人を生き返らせる手だてを探さなければならない。
 そう思い悩んでいるところへ青年が口を開いた。