「神父の様子を見に行ってみますか」
 現実的には神父の力にすがるより他はない。こうして手をこまねいている間にも、吟遊詩人の遺体では腐敗が進行している。その進行が修復不可能な段階にまで達してしまったら吟遊詩人を蘇らせることは出来なくなってしまう。残された時間は少ない。長く見積もってもあと三日が精々だろう。それを過ぎれば吟遊詩人はゾンビとなって人々を襲う。
 私たちは青年の案内を受けて、神父が静養を続けているその住まいへと向かった。
 神父の住まいは如何にも神職に身を捧げた人物に相応しい質素なものであった。一人暮らしとすぐにわかる、一間しかないその質素な家の中、ベッドの上に苦しげな表情を浮かべた神父が横たわっている。その傍らには心配顔のシスターが付き添い、神父の額に乗せた濡れタオルを取り換えるのを始めとして、身の回りの世話を甲斐甲斐しく行っている。
 青年が挨拶をするとシスターは疲れを隠すようにして頭を下げる。青年に紹介され、私と大魔道士はそれぞれに挨拶と簡単な自己紹介をした。シスターは丁寧な応接を見せてくれたが、やはり、どこか心ここにあらずといった色が窺える。
 青年が神父の具合について尋ねると、シスターは、快方に向かう様子はないと暗い声音で云う。


「ユーサンスの薬草があれば良くなるそうなんですが……」絞り出すような声でシスターが云った。
 ユーサンスというのは世界でも極めてめずらしい高山植物で、この葉を煎じると万病に効く薬になるのだという。青年の話によれば、このあたりでは、吟遊詩人が斃れたハイロックでのみ採ることが出来る。青年が続けて云う。
「ユーサンスは季節の変わり目に合わせて生えてきます。ですが、生える場所が決まっていません。あるときは山頂付近に生え、またあるときは中腹に生えてきます。生える範囲も極めて狭く、その為、嘗ては宝探しを楽しむようにして山に入る人々が大勢訪れたものです」
 それも魔物が住み着いた今となってはかなわなくなってしまったというわけだ。山を知り尽くした猟師であるこの青年を以てしても、魔物が徘徊しているとなればおいそれと山中を探して歩くわけには行かない。
 やるべきことは決まった。私は青年とシスターに向かって云う。「私たちが探してきましょう」
 ならばと道案内を買って出た青年とともに我々はハイロックに向かう準備を始めた。いったん宿屋に戻り、同行すると駄々をこねる娘に、ここにいるようきつく云い渡してハイロックへ向かった。