ハイロックという名前から、相当な高い山を想像していたのだが、いざ登ってみると山頂までの道のりは然程厳しいものではなかった。道中、出逢う魔物も、私たちの現在の戦闘能力からすれば必要以上に恐れを抱くほどのものではなく、青年の精密な道案内とも相まって、入山から三時間程度で目指すユーサンスの葉は見つかった。
それが生えていたのは山頂に程近い所で、青年の話によれば吟遊詩人を発見した場所に程近いらしい。辺りを見回してみるが、何の変哲もない山中であり、何故吟遊詩人がここを訪れたのか益々わからない。
水を飲むなどして、一息を入れてから下山の途につく。その刹那、青年があれは何でしょうか、とあらぬ方角を指さす。見れば、そこには一振りの剣が落ちていた。
取り上げてみると、柄のあたりに派手な装飾が施されてはいるものの、その切っ先は極めて凡庸で見るべきところのないものだ。青年に尋ねると、これは街の武器と防具の店で売っているものだと教えてくれた。剣は青年が持ち帰り、店の主人に渡しておくことになった。
大魔道士が持っている道具袋に入れたユーサンスをいま一度確かめてから下山の途を急いだ。
「待て」
下山の途も半ばとなったところで、如何にも魔王の手下とわかるような悪い声が背後から聞こえてきた。振り返るとやはり、そこには魔物が立ちはだかっていた。
見上げるような巨躯。肌の色は紫色で、そのフォルムは人間の生理に本能的な嫌悪感を抱かせずには置かない寄生虫のようだ。頭部からに飛び出るようにして付いている二つの目玉がギロリと蠢き我々を見下ろす。これまでに遭遇した魔物とはケタ違いの強さを誇ることは用意に想像できた。魔物は押しつぶしたような声で云う。
「さっきは一人だったが今度は三人か。じっくりと楽しませてもらうことに」
「ギガサンダラス!」
驚いた。魔物が台詞を云い終わらぬうちに大魔道士が強力な雷の魔法を起こす呪文を唱えた。不意をつかれたのだろう、魔物はギロリとした目を見開いたまま、為すすべなくその場に倒れ込み息絶えた。
私と青年が呆気にとられていると、大魔道士は「見た目だけじゃん」とひとりごちるとさっさと歩を進めて下山していく。呆気にとられている私と青年を振り返って「吟遊詩人とお嬢ちゃんが待ってるから早く戻らないと」笑顔で大魔道士が云った。