私と青年は半ば気圧されたようになってあとを付いていく。少し前を歩く、まだどことなく少女のあどけなさが残るその後ろ姿を見ながら、やはり大魔道士の名に相応しい存在だ、との思いを持った。
 然程強くない魔物との戦闘を繰り返しつつ山を下りた。山から出ると急ぎ足で街に戻り、そのまま神父の住まいへと向かう。
 ユーサンスの葉を受け取ったシスターは目に涙を浮かべて幾度も我々に頭を下げた。それでも最後まで涙を見せなかったところに、神職に携わるものの強さを感じさせた。
 シスターは早速、鍋を火にかけユーサンスを煎じ始める。神父は相変わらず苦しがっていたが、従前と比べて容体の劇的な悪化は見られない。この様子ならば薬が煎じられるまで現状が保たれるだろう。我々は幾許の安堵を旨に神父の住まいを後にした。
 最前拾った剣を渡す為に武器と防具の店に行くという青年と別れ、私と大魔道士は宿屋に戻る。
 部屋に入ると案の定、娘の姿がない。宿屋の主人に尋ねると、教会に向かったと教えてくれた。
 親ばかを承知で云えば、娘は妻に似て頭のいい子だ。とはいえ幾ら賢くともまだ五歳になるかならぬやの小供だ。やはり父親からの云いつけは守って欲しいと思う。


 急いで教会に向かう。その道すがら、あの神父の様子ならば一両日中には回復を果たして教会に復帰できるだろう、そこですぐに吟遊詩人の蘇生を行えば問題はあるまい。
 そんなことを考えながら歩くうちに教会へと到着した。さて、どう云って娘を叱るべきか、と思案をめぐらせながら扉を開いた私の目に、予想だにせぬ光景が飛び込んできた。
 教会の祭壇の上に吟遊詩人の棺桶は無く、代わりに祭壇の前で我が娘と吟遊詩人が話し込んでいる。
 我が目を疑うとはこのことだ。目を擦ってから見直したが娘が話をしている相手はやはり吟遊詩人その人である。何故生きているのか。私の頭脳は混乱に見舞われ暫時その場に立ち尽くした。
「あ! おとうさん!」私の姿を認めた娘が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。そのまま抱きつき「おかえりなさい! いまね、宿に戻ろうとしてたんだよ!」と屈託のない声音で云う。
「どうも……ご迷惑をおかけしまして」申し訳の無さそうな調子で吟遊詩人が云う。
 私は娘に事の次第を尋ねた。
「このおじさんが生き返らせてくれたの」娘はそう云って祭壇の陰に立ってこちらを見ている一人の男性を指さした。