男性は神父の装束を身に纏った、年の頃なら三十前後、しかしながら至極落ち着いた風情の持ち主で、その為だろう、歳に似合わぬ静謐な貫録を湛えている。
「出過ぎた真似をしました」男性の物腰は極めて柔らかい。男性の言葉を引き継ぐようにして娘が興奮を隠さない調子で云う。
「すごいんだよこの人! ちょっと呪文を唱えたらすぐに吟遊詩人のおじさんを生き返らせちゃったんだから!」
呪文と聞いた大魔道士がたまらず口を挟む「その呪文とはいったいどんなものなのですか?」
「ザイロクです」
「ザイロクって……そんなこと、あるはずが……」
大魔道士はそう云って絶句してしまう。後に大魔道士から聞いたところによれば、ザイロクというのは復活系の魔法の最上級に位置するもので、これを使いこなすには相当な力量が必要とされるという。さらにはこの魔法は、我が祖先が活躍をしていた時代を最後に姿を消してしまったものであり、大魔道士をしてこれを使いこなす人間に会ったのは初めてだという。
私は男性に尋ねた。「あなたはこの教会の神父様なのですか」
「いえ。ご覧の通りの神父ではありますが、この教会に属している者ではありません」
「ではどこかよその街からいらした」
「ええ。云ってみれば通りすがりの神父です。昔お世話になった教会に雰囲気が似ていたものですから、つい立ち寄ってみたまでです。そうしたらお嬢さんが熱心に祈られていたものですから、なにかお力になれればと」
「なるほど。どちらからいらしたんですか」
「遠い街です。極めて遠い……」
男性はそう云って遠い目をした。旅に出なければならないような理由があったのだろう。如何なすぐれた神父とはいえ人間だ。生きていれば色々とあるのは当然の話だ。
そのときだ。
「勇者のご末裔様!」
教会に一人の男性か飛び込んできた。見れば、それは最前、共にハイロックに入った猟師の青年であった。
「大変です! 神父様の容体が急変しました!」
「薬草は飲ませたのですか!?」
「いえ、煎じ詰める直前になって神父様が突然苦しみ始めて……全身に震えが来てしまってとても薬を飲ませられる状態ではありません!」