とにかく何とかしてくださいと青年に懇願されるまま、私たち一行は神父の住まいに向かった。例の男性にも同行を願う。吟遊詩人を見事に蘇生させた力がきっと役に立つと考えたからだ。幸い、男性は快く同意してくれた。
神父の住まいに行くと、青年の云う通り神父はベッドの上でガタガタと全身を瘧のように震わせている。その傍らではシスターが涙を流しながら神への祈りを一心に捧げている。竃の上に置かれた鍋の中にはユーサンスを煎じ詰めた薬草が、竃の熱を受けてぼこり、ぼこりと間欠的に泡を立てている。
青年に懇願されてやっては来たものの、いざ事態に直面してみると、我々に出来ることは最早無かった。私はこの時ほど自分の無力を痛感したことは無い。薬草を口に含むことすらままならないほどに悪化した神父の容体。私は魔法が使えぬし、頼みの大魔道士は回復系の魔法が得意では無く、げんに使えるのはライフを回復させるものが精々だ。
為す術を失った中、時間ばかりが無情に過ぎていく。神父の震えは愈々ひどくなり、遂には弱々しいものに変わり始めた。顔色は紙のように白くなり、荒かった呼吸も途切れがちになる。しかし我々の間にこれという妙案は浮かばない。
と、そのとき、例の男性が前に進み出た。
ベッドの傍らで泣いているシスターの肩に手をかけ、代わりましょうと優しい声音で云う。シスターは静かに傍らから離れ、男性にその場を譲る。男性は跪いてから神父の手をそっと握る。男性は目を瞑り、念を送るように意識を集中させる。そのまま数分。
「う、ううん……」
すべての時が止まったような静寂の中、神父の口から呻くような声が漏れる。それを切っ掛けにするように男性はさらに念を込める。眉間には深い縦皺が刻まれ、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。そのまままた数分、見る間に神父の顔に赤みが差し、呼吸に力強さが戻ってくる。
ふっと男性が力を抜く。「もう心配ありません」
その言葉の通り、神父は程なく目を覚まし、ゆっくりと上体を起き上がらせてかち周囲を見回す。その様子からは病の色が消えている。
「いったい私は……」と云いかけた神父の表情が、男性の存在に気付いた途端に強張る。
「あなたは……いや、そんなはずは。あなたは……我が道を……タイラスを追われたはず……七百年の……」
困惑の様子を隠さず、何事かを口走る神父。男性はその神父を制するように優しく声をかける。