「なにも気にせず、いまはゆっくりとお休みください」
 男性の声に誘われるように再び眠りにつく神父。その寝息は先ほどまでとは違い、すやすやとした、聞いているこちらまで眠くなってくるような心地よさに溢れている。
「ありがとうございます。ありがとうございます」いまや嬉しさのそれに変わった涙を流してシスターが男性に幾度も頭を下げる。男性は相変わらずの柔和な物腰で、この神父さんは立派な方です、大切にしてあげてください、と声をかけた。
 神父の住まいを後にすると、既に陽は西に大きく傾き、夜の闇が辺りに迫り始めていた。今夜は教会に泊まるという男性を、吟遊詩人を蘇らせ、この街の神父を救ってくれた礼をさせてくれと云って引き止める。男性は逡巡を隠さなかったが、娘が屈託なく一緒にご飯を食べようと頼むと笑顔を見せて応諾した。
「ところでさー」宿屋に着くなり娘がおもむろに口を開く。
「ずーっと気になってたんだけど、吟遊詩人のおじさんさー、こないだ云ってた伝説の剣はどうなったのー? おじさんが云うからここにきたんだよ。なんか手がかりとか見つかったのー?」


「え、う、あ、あぁ、いや、あのね」吟遊詩人は極めてわかりやすい狼狽を呈している。
「そういえばハイロックの山頂に剣が落ちてましたよね」大魔道士が屈託なく云う。
「あ! それ! それが伝説の」と、吟遊詩人が云いかけたところへ男性が遮るように云う。
「伝説の剣ならば、迷いの森にあると聞いたことがあります」
「それだ! そこにあるっ!」吟遊詩人が素晴らしい勢いで同意する。
 迷いの森というのはこの街から西に向かった先にある鬱蒼とした森のことらしい。男性が何故そのことを知っているのかわからなかったが、この男性の口から発せられると、如何にも信用に値する情報のように聞こえてくるから不思議だ。
 吟遊詩人の発言に整合性がまるで無いことは気にかかったが、それをさて置いても迷いの森に向かってみる価値はありそうだ。伝説の剣が見つかれば、我が祖先が遺した武具がすべて揃うことになる。そうなれば魔王の討伐への機運も益々高まってくる。次に向かう先は決まった。
 宿屋の主人にそう云って可能な限りの豪勢な食事を誂えてもらう。その豪勢な夕食をとりながら、男性にそれとなく色々と尋ねてみる。