しかし男性は自らの出自について殆ど語らない。代々神父の家計に生まれつき、それを生業としていること、年齢は私と同程度で中年のとば口に立っていること、私たちがきっと知らないような遠いところからやってきたこと、もう長いこと旅を続けていることなどを話したくらいだ。
だが、その語り口や物腰からは我々には無い落ち着き、冷静さが感じられた。それが何に起因するのかはわからないが、我々とは明らかに何かが違っている。まるで違う時代に生きている人のような印象すら受ける。
話が一段落したのを見て取り娘が云う「おじさんさぁ、私たちと一緒に旅しない?」
突然そんなことを云うんじゃない、と娘を叱り、男性に不躾を詫びたが、実のところ私もそれを望んでいた。大魔道士も同じ考えだったらしく、ザイロクを使いこなせる人は滅多にいない、仲間に加わってくれればこんなに心強いことはないと云った。
男性はしばらく逡巡していた。我々もそれ以上の言葉を継ぐことが出来ずに居た。そうして訪れた長い沈黙の中、男性はおもむろに立ち上がると、 娘の前に歩を進め、胸に下げている王家の紋章を手に取り、どこかへ想いを馳せるかのようにしげしげと眺めた。
「わかりました。お力になれるかどうかわかりませんが、共に旅をさせて頂きます」
やったあ、と娘が快哉をあげる。
「共に魔王の討伐に向かいましょう」私がそう云って手を差し出すと、男性は少しだけ安堵の表情を浮かべてから、すぐに笑顔になってその手を握り返した。こうしてまた、我々は新たな仲間を迎えた。
「ねぇ、おじさんのことはなんて呼んだらいい?」娘が屈託のない笑顔と共に訪ねる。
「おじさんで構いませんよ」「でもね”おじさん”じゃ、こっちのうた歌いのおじさんとかぶっちゃう。っていうかお父さんもいれて、おじさんばっかりだしもん」「では神父さんと呼んでください」
気がつけば、我が祖先が魔王を封印した際に組んでいたパーティと同じ構成になっていた。勇者、魔法使い、吟遊詩人、神父。流石に我が祖先は幼子までは連れていなかったようだが、その分だけ我々の方が個性に富んでいる。
いつの間にか夜も更けた。部屋は四人部屋だったから、今夜ばかりは別に部屋を取って男性陣と女性陣で二部屋に別れて宿泊をした。明日は夜明けと共にここを出立して迷いの森に入る。こんどこそ伝説の剣が手に入ることをいまは願っている。
眠くなった。早く休んで明日に備えよう。