「大人が四名様にお子様がお一人様のご乗船ですと〆て千四五〇ゴールドになります」男は益々の笑顔と揉み手をしながらそう云う。
出納の一切を引き受けている大魔道士が財布の中から代金を取り出そうとするところへ男が続けて云う。「なお、出航は二週間後になりますがよろしかったでしょうか」
またもやおかしな敬語で男が云う。二週間? 天候の不順と迷いの森を探して回ったことで既にかなりの日数を無駄に消費してている。そこへ更に二週間を待たねばならぬのは如何にも痛恨だ。無論、天候の不順と迷いの森に関しては我々の問題だからこの男に責任は無い、が……。
我が娘が頑是無い口調で云う。「あーあ。はやく魔王をぶっ倒さなくちゃいけないのに二週間も待たなくちゃいけないのかー」
途端に男の顔色が変わった。「えっ。するとあなた方は、魔王討伐の為に立ち上がった伝説の勇者、その末裔のご一行であらせられまするのでありましたのでございますか」
とうとう目茶苦茶になった敬語でそう云うと、男は私と娘が胸から下げている王家の紋章に気付いて瞠目した。
「そうとは知らずに失礼を申し上げました。それでしたら出航を早めさせていただきます。船の整備が済み次第、そうですね、二日後、明後日の朝には出航できるよう手配をさせていただきます。勿論、乗船料のほうも大いに勉強させていただきます」男はいまや笑顔を超越したくしゃくしゃした表情でそう云うと恭しく名刺を差し出した。そこには【ポートサルマ船舶 社長】と肩書きが記されていた。
からんからんからんからんからん。カウベルの音と米搗きバッタのように幾度も頭を下げる社長の挨拶に送り出されて表に出る。
表に出るなり「先に魔王をぶっ倒す話をしておけばよかったね」と云う娘に、そうやって肩書きや立場を利用して人よりいい目をみようとしてはいけないと諭す。そうして明後日の朝までを過ごす宿へと赴き投宿の手続きを済ませた。
簡単に荷解きをして漸く人心地がついた。我が娘と大魔道士は早くもそろって街へと繰り出していった。都市のきらびやかな喧騒はガールズの心を浮き立たせずにはおかないらしい。
暫くすると部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。応対に出てみるとそこに居たのは宿の主人で、我々に訪問者があることを告げた。