街は、その規模に相応しい活況を呈していた。往来する人々はまるで魔王の復活などないかのように溌剌と振る舞う。あちこちで商人の売り声があがりその声に引き寄せられ買い物客や旅行者が集まり愉快なるひとときを過ごす。そこに居るだけで心が高揚するような都市の喧騒に包まれていた。
 伝説の剣の情報を求めて道具屋に赴く。行商人が仕入れ・買い付けに出入りする道具屋では付随して有益な情報もよく流通しているものだ。
「海の向こうにあるララミーって街で伝説の剣の噂を聞いたって云う行商人が居たなあ」間口が四間もある広い売り場面積を持つ道具屋の主人は、我々が買い物客では無いと知った落胆を素っ気のなさに変えながらそう云った。私と娘が胸に下げている王家の紋章には気付かないらしい。
 更なる情報を求めて武器屋や市なども廻ったが、これ以上に目ぼしい情報は得られなかった。
 海の向こうとなれば船に乗らなければならない。もう少し街を見てまわりたいと小供らしい我が侭をいい始めた娘を宥め賺して港に向かう。
 港は街の中心から少し離れた場所にあった。喧騒が遠くに聞こえる中に、二十人ほどが乗れそうな中規模の客船が一艘、静やかに停泊している。


 私は甲板を掃除しているセーラー姿の船員らしい若い男性に声をかけた。「ああ、次の寄港地はララミーにも近いところですよ」 まさに渡りに船。早速乗船を申し出る。
「それでしたらそこの営業所で乗船の手続きをしてもらえますか」
 港の片隅に【素敵な旅のお手伝い ポートサルマ船舶】と看板が掛けられた小さな建物があった。
 からんからんからんからんからん。ドアを開けると、この手の営業所には似つかわしくないカウベルの音が聞こえた。
 さほど広くない営業所の中には中年男性が一人、机に向かって難しい顔で書類に目を落としていて我々の訪問に気付く様子が無い。  我が娘がわざとドアを押して再びカウベルの音を響かせる。男は漸く顔を上げてこちらを見た。目が死んでいる。人間に活力がない。 一瞬のち、男は我々の姿を認めるや途端に嘘臭い作り笑いを浮かべ揉み手をしながら立ち上がった。
「これはこれはようこそボートサルマ船舶へ! ご乗船のご予約でよろしかったしょうか?」
 中年の割にはおかしな敬語を使うと思ったがそこはスルーして次の便への乗船を申し込む。