「そういえば、ちょうどあなたのような格好をした人が古い剣をお買い上げになったことがありましたよ。もう何年も前の話ですけど」
 主人がそういい終わるや否や、こんどは妻のほうが、夫妻の背後にある棚から売り上げの記録帳を引っ張り出してページを手繰り始める。
「これじゃないかしら。ほら」と主人に向かってとあるページを示してみせる。そこに目を落とした主人もこれだこれだと同意する。主人が続ける。
「これは出所が解らないまま、ウチの店に長いあいだ、それこそご先祖様の代からずっと在庫してあった剣でねぇ。もはや売り物というより、ウチのお守りのようになってたんだけど……えーと、この記録によれば六年前に、突然お買い上げになられるお客様が現れましてね」
 売り上げ帳の記録から次々と記憶が呼び覚まされたらしく、主人はさらに続けて話す。
「しかもそのときはおかしな商売をしましてね。お客様がお支払いを古銭でしたんですよ」
 古銭? 思わず頓狂な声で聞き返すと妻のほうが彼女の足元に置いてあった鍵の掛かった宝箱を開けて、中から数百枚はあろうかという金銀銅、とりどりの貨幣をとり出してみせてくれる。



 そのうちの一枚を取り上げ、矯めつ眇めつするように眺める。成る程、こんな金は見た事がない。しかし古銭の割には新しく、あまり時代がかかっていないようにも見える。主人がその疑問に答える。
「よほど保存状態が良かったのでしょうね。念のために複数の同業者に見せて回りましたが皆、本物と判定しています。勿論、私もそのように考えています。これは伝説の勇者が国王となって活躍した時代の貨幣でかなり貴重なものです。しかもこれだけの分量ですから、とてもあんな、何の謂れも無い剣とは釣り合いが取れないほどの価値がありますよ」
 男はこの大量の古銭を半ば押し付けるように置いていったのだという。
 いずれにせよ剣はもう、ここには無い。
 無論、その男が買い上げた剣が伝説の剣である保証は無い。だが、わずかな手がかりを頼りにここまでやって来たのだ、もう少しこの情報に縋ってみてもいいだろう。その男を探し出し剣について尋ねるのが我々がとるべき最善の手だ。
「売り上げ帳には売り上げの記録しか載せてませんから、お客様の動向までは……」主人は申し訳なさそうにそう云って黙ってしまう。どうやら男について、これ以上の情報を得られそうにない。