追いかけていた手がかりはここで途絶えた。店を後にした我々一行は、街の中心部にある公園で途方に暮れていた。
 伝説の剣を持たずして魔王を討ち果たす方策を探したほうが賢明ではないか。そんなことをぼんやりと考えていたところへ、我が娘が独り言を云う声が聞こえてきた。「あーあ。ご先祖様が活躍した昔に戻って剣を借りてこられたらいいのに」
 如何にも道理を弁えない小供らしい荒唐無稽な物云いだ、と半ば呆れたような心持ちで娘の言葉を聞いた。そうして相変わらず途方に暮れたまま、ぼんやりとその言葉を頭の中で反芻する。昔に戻って。昔に戻って剣を借りて。ご先祖様が活躍した昔に戻って剣を借りてこられたら。
 あっ。と思ったときには既に吟遊詩人が魔法使いに尋ねていた。「おい。時を操る魔法は使えないのか。俺、聞いたことがあるぞ、そういう魔法があるって。大魔道士なら使えるんじゃないのか」
 大魔道士は途端に不安を通り越して、今にも泣きそうな表情で吟遊詩人を見つめたまま動かない。吟遊詩人が続ける。「っつーかあんた本当に大魔道士なのか? 確かに大した魔法を使うけど、俺の目からみたらどうみてもまだ小供だぜ。すぐ泣くし」



 云われたとおり大魔道士はさめざめと泣き出した。静かな公園に大魔道士があげるしゃくり上げるような泣き声だけが響いている。
 我が娘が二人の間に割って入るようにして云う。「うた歌いのおじさん! おねえちゃんを泣かせたらだめだよ! おねえちゃんはすごいんだから!」
 そうして今度は大魔道士に向かって云う。「そんな魔法ぐらい使えるよね! 見せてやりなよ! このなんかへんな臭い匂いのするおじさんに!」
 いまや大魔道士は泣きじゃくっている。涙のみならず鼻水までを流しながら娘の言葉に頷いている。
 ほんとにできるのかね。と、捨てぜりふのように云う吟遊詩人を神父が制し、一同に向かって云う。「次のブルームーンはいつになりますか」
 神父が云うところによれば、ブルームーンの宵に世界の各所にムーンゲートなる時空を超える扉が開き、予期せぬ時代と場所へ移動することが出来るのだという。
 その話を聴いた私を含めた面々が、不思議なものを見るときの顔で神父をみている。ムーンゲートのことなど聞いた事がない。その空気を察した神父は急に顔を赤らめて俯き「忘れてください」とつぶやいてその場に力なくうずくまった。