王暦721年某月某日

 まさか、という疑念は歩を進めていくごとに、やはり、という確信に変わっていく。ひと足ごとに大きく明瞭さを増しつつ我々の目に近付いてくるその巨大な建造物は紛れもなくマンダスク城だ。
 この世界を統治する唯一の王国/王宮であるマンダスク城。まるで辺りを睥睨するかのようなその威容は、私の記憶の中にある城の姿と何ら変わるところがなかった。それどころか目を凝らして見てみれば、城壁等々の仔細な部分に於いて記憶の中にある像よりもより綺麗に見え、まるで新築されたばかりであるかのような印象すら受ける。
「新築されたばかりなのです」そこへまるで私の思念に応答するかのような言葉が聞こえてきた。声の主はと確かめてみればそれは神父であった。お城お城と嬉しそうに声をあげてはしゃいでいる我が娘にマンダスク城について説明をしてくれている。元より好奇心に溢れた性格をしている我が娘は、ここを先途と神父に尋ね捲る。
「なんでここにお城があるの」
「ここがマンダスク城のある場所だからです」
「でもこのお城、なんか綺麗だよね」



「新築されたばかりなのです。確かめてみなければ正確なところは云えませんが、おそらくはまだ築城されてから、つまりはお城が完成してから日が浅いのでしょう」
「ふうん。じゃあやっぱりあたしが知ってるあのお城とはちがうお城なんだ、ここ」
「いや。同じですよ。皆さんがよくご存知のマンダスク城です」
「え? でも私が知ってるお城は、もっと古かったよ。ところどころボロかったし」
「ですからそれは……私たちがいま、お城が出来た頃の時代に居るという事です」
 そう云って神父は感慨深げに城を見上げる。その神父の視線に釣られるように我々一同も同じように城を見上げる。そうして輝くばかりの真新しさを湛えているその城壁を眺めあげながら、そうか……してみると我々は当初目論んだ通りに時を超えたのだな、先祖伝来の剣が存在する時代にやってきたのだな、とそんな思いを漠然と頭に描いていた。
 だがちょっと待て。なぜ我々は時を超えることができたのだ。将又、何故神父は我々がいまいる場所について知っているのだ。