急速に湧き上がってきた数々の疑問。だがその疑問はばらばらと駆け寄ってきた衛兵たちの存在によってかき消されてしまった。
 あっという間もなく我々一行は十名以上から成る衛兵たちに取り囲まれた。衛兵たちは怒気を孕んだ様子のまま我々一行を睨み付けている。こういう場合に使われる常套句であるはずの「何者だ」「用向きは」などの台詞もないままに、ただただ我々一行を取り囲み睨み付けている。しばらくそうしてから衛兵たちのリーダー格と思われる、面々の中でいちばんの年嵩に見える衛兵が徐に声をあげた。
「引っ捕らえろ!」それを合図に他の衛兵が弾かれたように動き出す。
 衛兵たちは一糸乱れぬ統率された動きで素早く……神父を縛り上げた。
 リーダー格の衛兵(後で聞いたところによれば少尉らしい)が縄を巻かれ跪かされた神父を見下ろして云う。「国王陛下を窮地に陥れた大罪人が自ら飛び込んでくるとはな。いまは閲見の間でお寛ぎのはずの国王陛下もさぞお慶びになられることだろう」
 神父は抵抗することなく大人しく縄に掛かっている。まるでこの状況を予期していたかのように落ち着き払っている。



 衛兵は満足げに繰り返し頷いてから引っ立てろ、と指示をする。衛兵たちは乱暴に神父を引っ立てると、そのまま城の中に連れ去っていってしまった。後に残されたのは神父以外の我々と、門番としてその場に残った二名の衛兵。あまりのことに我々は抗議の声をあげる事も忘れ、ぽかんとまるで他人事のように状況を眺めることしかできずにいた。
 それからどれくらいの時間が経っただろう。我々はどうするべきか判らずその場にただ立ち尽くしていた。門番としての職務に立ち返った衛兵たちも無言でその場に立ちつくし我々の事を睥睨している。そうして時間ばかりが無為に過ぎていく。
 そんな気まずい雰囲気の中、ちょこちょことした足取りで我が娘が衛兵に近付いていく。何をするかと思って内心ひやりとしながら見ていると、自らが胸に下げている王家の紋章を衛兵に指し示しながら嬉しそうな様子になって口を開いた。「おんなじですよ」
 我が娘と私が胸に下げている王家の紋章と、衛兵たちが着用している鎧の胴の部分に小さく書き込まれた文様が同じだと云っているらしい。衛兵たちは互いに顔を見合わせて、反応に困ったような表情を浮かべている。