ところへ、ぎぎぎぎぎ、という重たい音を響かせて城門が開いた。中から最前、神父を引っ立てていった年嵩の、リーダー格の衛兵が一人で現れた。衛兵は最前の状況を引きずったような強面で我々一行を睥睨すると、今度は打って変わって満面の笑みを浮かべながら口を開いた。「どうもどうもどもどもども。先ほどは突然ご無礼を致しましたあ。お怪我などはございませんでしたでしょうかあ? 王妃殿下のお旧いお友達とは存じ上げませんでえ……まっことに申し訳ありませんでしたあ」
その表情同様、最前とは打って変わった砕けた物腰でそう云いつつ何度も深々と頭を下げる。低姿勢を通り越していまや卑屈という表現がしっくり来るような態度になった衛兵は、そのままの態度を崩すことなく我々一行を城内に招じ入れる。
衛兵に先導されるまま城内に向けて歩を進める。ぎぎぎぎ、とやはり重たい音を立てて城門が閉じられる音が背後に聞こえる。年嵩の衛兵は相変わらずの卑屈な低姿勢で、あれこれと何事かを喋り続けている。ついぞ、その理由についてはわからなかったがここまでの態度の豹変があるということは、この衛兵の身に相応の、相当の出来事が降りかかったのだろう。
衛兵に案内された先は閲見の間であった。王様から魔王討伐の命を受け、その出立を果たした忘れ難き場所。
「ご末裔様をお連れいたしましたあ」衛兵が王妃殿下、大臣に向かってそう報知する。その声に、閲見の間内部に居た人々が我々一行を見やる。
閲見の間の中央に玉座が二つ並んで配置されている。向かって右の玉座に王妃殿下が着座している。その傍らには大魔道士とよく似た女性が付き従っている(この女性は後に大臣であると知れた)。さらには王妃殿下と相対するように神父が居るのが見えた。よかった。無事に解放されたらしい。
我が祖先である国王の姿が見えないのが気にかかったが、王妃殿下ならびに大臣、さらにはこの閲見の間にいる人間が誰もその不在について言及しないためについぞそれについて訊ねる機会を逸した。
「ささ。どうぞどうぞどうぞどうぞお通りくださあい」徹底的に卑屈な笑顔と低姿勢を崩さない衛兵にそう促されて閲見の間に足を踏み入れる。
「よくいらっしゃいました。先ほどは衛兵が不作法な真似を働いてしまって……まずはお詫びします。あなた方のことはこちらにいる神父様から粗方聞き及んでおります」王妃殿下は続けて云う。