「既に察しがついているとは思いますが、ここは、あなた方が住まっていた時代から遥か以前の時代です。年月にして……七百年ほど遡った時代です」
七百年ほど前と云うと、我が祖先が魔王の魂を封印し、建国が成った頃であろう。方策はともあれ我々は目指すところに来ていたのである。王妃殿下は続ける。
「我が良人でもあるこの世界の王……あなた方の世界では”伝説の勇者”と呼ばれているそうですね。その勇者が封印した魔王の魂が復活したとか。その討伐に必要な剣を所望されているそうですね」
話が早い。神父がそこまで説明を付けてくれていたのだろう。改めてその無駄の無い働きぶりに感嘆するような思いを抱く。
ご賢察にて恐れ入ります、と答えると王妃殿下は微笑みを絶やさぬまま深く頷き尚も続ける。
「剣はララミーの道具屋に厳重に保管してあります。このことは我が国でも私と大臣を始めとして数名の人間しか知りません。国王陛下すらご存知の無いことです。ついては書状を認めておきました。私の名前に於いて剣の持ち出しを許可するという書状です。この書状をララミーの道具屋に渡せば、剣は恙なくあなたの手に渡るはずです」
傍らに居た大臣がそっと進み出て王妃殿下に書状を手渡す。受け取った王妃殿下が今度はそれを私に向かって差し出す。「どうぞお受け取りを」
前に進み出て両手で恭しく受け取る。確と押された緋色の封蝋が、この書状が王家から公式に発せられた書状であることを物語る。無論、封蝋に刻まれている印籠は私と娘が胸から下げている王家の紋章と同じ文様だ。
とんとん拍子に話が進みすぎて怖いくらいだ。入城が許可されてからおそらくまだ十分ほどしか経っていない。だというのに、あれほど右往左往して探し求めた伝説の剣を獲得するその算段がほぼ付いてしまった。
道具袋として常用している、娘が背負っているバックパックに書状を仕舞い込む。他の荷物とぶつかり擦れることなど無いよう細心の注意を払う。そうしてパックパックの口紐を閉じたときには流石に幾許かの安堵感を覚えた。
ところへ一人の衛兵が現れた。何事か報知する時候がある様子なのだが、部外者であり客人でもある我々の存在に気兼ねをしているらしく出入り口にあたるところで逡巡している。気付いた大臣がどうしましたと声をかけてやる。