エピローグ act.2
タイヨウくんTaiyo-kun

タイヨウくんが弟のちきゅうクンにサプライズなプレゼントを贈ったのは結局、事件から7ヶ月が経過した2015年4月のことだった。

今度こそ失敗はしないと意気込んだタイヨウくんは、サプライズとしてのレベルが多少低くなるのを承知で両親に協力を仰いだ。両親はタイヨウくんの弟を思う心根の優しさに感激し、ちきゅうクンには絶対にバレないような綿密なサプライズ計画を練り上げ、更にはあの日、タイヨウくんが悩みに悩んだキュウコウ4号のフィギュア×2体をタイヨウくんに替わって調達してきた。

2015年4月、タイヨウくんの一家はちきゅうクンの幼稚園への入園祝い&タイヨウくんの4年生への進級祝いをするという名目でマイティメガモール南堵洛に赴いた。普段は行かないモールのレストランエリアにある比較的高級な中華料理店に入りランチを取ることになったタイヨウくん一家。予約してあった席に着席してすぐにタイヨウくんが「お兄ちゃんからのプレゼントでーす」と、ちきゅうクンにキュウコウ4号のフィギュア2体が進呈された。

だがちきゅうクンはその頃すでにキュウコウジャーへの興味をすっかり失ってしまっていた。どうだと云わぬばかりのタイヨウくんに対して微妙な反応を見せるちきゅうクン。そんな二人の兄弟をにこやかに見つめている両親。ただひたすらに幸せな空間がそこにはあった。

しかし本当のサプライズはこの日の直後にやって来た。

中華料理店から出て、モールの食料品売り場であれやこれやと買い物をしているところで偶然にも頬野あやちゃん三歳と耳子の親子に出会った。久々の再会に喜ぶタイヨウくんとあやちゃんと耳子。ここで会ったのも何かの縁というので六人はモールのカフェに入り話し込んだ。話し込んでいるうちに耳子とタイヨウくんの母親はすっかり意気投合してしまい、以降、タイヨウくんの一家とあやちゃんの一家は家族ぐるみの友達付き合いをするようになる。

斯くしてタイヨウくんと頬野あやちゃん三歳は幼なじみとして時間を共有するようになる。ある時は友達のように、ある時は親戚のように、またあるときは兄と妹のように親しく付き合った。そうして過ごしてゆくうちに、やがて二人は愛し合うようになり遂には夫婦となるのだが、そこにたどり着くまでにはあと二〇年の時を待たねばならない。

麦江田譲治Johji Mugieda

麦江田は事件の後もそれまでと変わることなくマモル警備保障で働き続けた。事件が彼の仕事ぶりに影響を与えることはなく、持ち前の勤勉さと責任感を発揮し続けた。

しかし、実のところ麦江田は事件が起こる以前から警備員からの転職をそこはかとなく考えていたのだった。神社の宮司の家に産まれ、実際に彼自身も一時期は宮司として生活し修業を修め、必要な資格ももち、人格についても申し分がないという評価をすでに獲得していた麦江田。そんな麦江田を宮司として迎えたいという神社からの誘いがいくつか届いていたのである。

だが事件が起こるまで麦江田は宮司への転職について具体的に行動することはしていなかった。そういう選択肢もあると頭に思い描いていたばかりであった。しかしやはり事件が彼の心に微妙な影響を与えたのだろう。事件の以後、麦江田は転職について具体的に考え始める。あの日の事件を思い返すたびに、タイヨウくんと頬野あやちゃん三歳のことを思い出すたびに、麦江田自身にも理解できない感情に突き動かされその意識は転職へと向かっていってしまうのだった。

そうして遂には2016年12月末日を以て警備員を退職し、翌2017年元日から生まれ故郷である飛島県にある飛島島鳥権現神社の宮司の職へと転じた。資格があるのだからその必要はないという神主の意見に抗い再び一から修業をやり直した。

その後、2018年に同神社の神主が没すると、跡継ぎが居なかったこともあり麦江田が神主を引き継いだ。

2019年6月には権現神社にとある中学校の修学旅行を迎えた。その生徒の中に中学生となったタイヨウくんが居たのだが麦江田はそのことに気付かず、タイヨウくんもまた麦江田に気がつかなかった。