エピローグ act.4
元倉之行&馳井くん子Y.Motokura & H.Kunko

元倉之行と馳井くん子は事件から五ヶ月が過ぎた2015年2月、当初の予定通り入籍&結婚式を挙げて名実ともに夫婦となった。近親者やごく親しい友人のみを集めて行われた披露宴は二人の温順な性格がよく現れた暖かみに溢れた式となり、来場者の心に幸せな風を送り込んだ。新郎側の親戚が座るテーブルにずらりと居並んだ元倉の近親者の、男性側の面々はいずれも見事なまでの禿頭で、その光景を見たくん子は「元倉くんは残ってるほうなんだ」と感心すること頻りであった。無論、いま元倉の頭にカツラなど乗っていない。

結婚後も二人はそれまでの会社にそれぞれ勤め共働きで暮らした。小供はなかなか出来なかったが焦りはなかった。寧ろ、2人で居られる時間がそれだけ長くなるのだ思って一層仲良く暮らした。

事件から二年が経過した2016年10月、元倉がリーダーとなって開発したスマホ用パズルゲーム『姫秘めパニックゴールド』が累計百六十万ダウンロードを記録する大ヒットとなり元倉はその余勢を駆って会社から独立、共に開発を担当したチームを引きつれ新会社『プルート』を設立し新たなスマホゲームの開発競争に参入してゆく。これに合わせてくん子も勤務していたネット情報サイトを退社し元倉の会社に役員として加わることになった。

名実ともに夫唱婦随となって生活を共にしてゆく2人は2019年2月に目出度く第一子となる長女に恵まれた。かりんと名付けられた娘の成長を励みに二人はますます仕事に励んだ。

しかし2020年5月に会社が決算で大幅な赤字を出し経営が危機に見舞われた。沈没船から鼠が逃げ出すように社員達が離れてゆく。

もう駄目だ。性格的にあきらめやすい元倉はそうして何度もすべてを投げ出しそうになったが、その度に明るく前向きなくん子が苦境を笑い飛ばした。

しかし笑ったところで状況が改善する筈もなく、やがて資金繰りにも行き詰まり「行くも地獄、戻るも地獄」といった状況に陥ってしまった。流石のくん子も駄目かも知れないと内心であきらめかけたとき、元倉が突如として妙なことを思い出した。

「あのときなんでルパンがウチの玄関にいたんだろうなあ」。

 云われてくん子も思い出した。マイティメガモール南堵洛で電気自動車の事故が起こったあの日、当時住んでいたアパートに戻ってきたら玄関崎でルパンがまるでそこで息絶えたみたいにに居たんだっけ。元倉の頭にひとつのアイディアが浮かんだ。

あの事件から数年が経ちルパンは進化しより多くの家庭に行き渡っている。ならばそこにチャンスがあるのではないか。元倉は早速、ルパン実機を操ることで遊ぶスマホ/タブレット用のゲーム「スマホdeルパン」を開発した。そのプロトタイプ版をルパンを国内で販売する窓口となっている代理店に持っていってプレゼンしたところ大受けとなり、ルパンの名を冠したゲームとして正式に開発された。ゲームは発表されるや世界中で大人気とななった。

元倉とくん子の会社をこれを機にその業績をV字回復させた。それが2020年9月のことで気がつけば事件から6年が経過していた。以降、会社の経営も安定基調に乗り二人の暮らしはすっかり落ち着いた。日々成長してゆく幼い娘の姿を見ながら、あの時、結婚してよかった。あの日、モールに行ってよかった。ルパンを見ていてよかった。と、心の底から思う元倉とくん子であった。