往路にかけたものよりも遥かに短い時間で帰城する。
 最前と変わらずに城門を守り続けている門番の兵士二人組に声をかけて場内に入ろうとしたところまたもや止められた。 「誰も通すなと云うお達しがありまして」
 今日一日だけで三度目の足止めであり、人から温厚と評されることの多い私とて怒りを覚えるには充分な仕打ちだ。
 ましてや魔王討伐に出てから、初めてとなる魔物との戦闘を潜り抜けてきたばかりで未だアドレナリンの放出も収まっていない。
  気がつくと私は刀の柄に手をかけていた。
 ところへひとりの中年とおぼしき職人風の男が私の後を追うようにしてあらわれた。「あっ。お待ちしておりました。どうぞどうぞ」
 門番を務める兵士たちは、暴発寸前にまで到達した私の怒りには気付かず、その男を城内へと招じ入れる。
 結果的に、機先を制せられた形となった私の怒りは、その暴発する先を失い、急速に萎んでいった。  自分の怒りが、自分以外の誰にも影響を及ぼしていないことに気付いた私は、怒っている自分がまったく滑稽に思われてきて、そうと気取られぬようにそっと刀の柄から手を放した。
 職人風の男が入城すると、再び城門はぴたりと閉じられた。


 半時ほど過ぎたころ、職人風の男が城内から出てきた。
 男は、門番に曖昧な笑顔を浮かべながら挨拶をして去っていく。
 男の姿が見えなくなる頃になって、ようやく入城が許可された。
 先ほどまでの怒りは消失していたが、それでも釈然としない気分は残っている。それが為であろう「お待たせしました」という門番に一別すらくれることなく城内に入る。少し気分がスッとした。

 謁見の間に再び足を踏み入れる。
 早速、王様に火吹き山での顛末を話し、図らずも獲得した指輪を献じた。
 王様は手にした指輪を見つめると、一瞬だけ、込み上げてくるのを抑え切れない、といった風情の笑顔を浮かべた。
 それはお世辞にも素敵な、とは云い難いどちらかと云えば下卑た感じの笑顔ではあったが、王様のお喜びのほどは手に取るように伝わってきた。
 自分のしたことで誰かが喜んでくれる。
 人間が生きていてこれに勝る喜びはなかなか無いだろう。
 その際たるものが魔王討伐である。
 だがこれから喜びの中にある王様に辛い知らせをしなければならない。