火吹き山に赴いた本来の目的である、王家の紋章が見つからなかったことを私はおずおずと伝えた。
「そのことについては」王様の傍らにいた大臣がおもむろに口を開く。
「実は私どもの手違いで、王家の紋章は我が城内の宝物庫にあったのです」覚えずヒザの力が抜けそうになるのを必死にこらえる。
大臣はそんな私の様子には一向構わず、恭しいように王家の紋章を取り上げ私に見せる。我が王家の紋が掘り込まれたメダル様の紋章が、射し込んでくる光を受けて文字通りに光り輝いている。その輝きは実に見事で、そうと知らぬ人が見たら新品と見紛うことだろう。おそらく、我が祖先がよほど大切に保管をするよう命じたのだろう。
大臣が王様に紋章を手渡す。
「ご末裔殿、これへ」
王様に促され、その前へと歩を進める。直立不動の姿勢を取る。
「伝説の勇者、そのご末裔」
と、王様が魔王討伐の勅命を宣旨し始めたところへ、最前、初めての登城の際に私たち親子を案内してくれたメイドが謁見の間に現れ唐突にこう声をかけた。
「ご末裔様のお嬢様をお連れいたしました」
見れば、メイドに手を引かれた我が娘がそこに居た。
謁見の間、その全体に水を差されたような気まずい雰囲気が漂う。王様と大臣は、それを隠さず不快と困惑の表情を見せた。
「おいで」
私がそう云うと、娘は駆け寄ってきて私の右隣に立って手をきゅっと握ってきた。王様と大臣に非礼を詫び、一方でメイドに礼を云う。
改めて王様が勅命を宣旨する。
「伝説の勇者様、そのご末裔殿に、復活を果たし世界を恐怖に陥れた魔王ブラックデモンの討伐を、国王の名の下にここに命ずる」
次いで王様は私の胸に王家の紋章を付けた。
斯くして、漸くのことで王様からの勅命、並びに王家の紋章を賜るに至った。
「まずは世界各地に点在すると云う伝説の武具、これらの回収を目指すがよろしかろう。旅は長い。くれぐれも焦らず、着実に進むのだ」
王様の言葉を謹聴する。大臣がその後を引き継いで話す。
「我が国から北東にあるクリメールの町に、伝説の剣に関わる云い伝えがあると聞きます。まずはそちらへ向かわれては如何でしょう」
クリメールであれば今から出立しても、日が暮れまでには充分に到着するはずだ。私は、早速の出立を申し伝え、謁見の間を辞去した。