果たせるかな、ちんぴら風の男に呼び込まれ海賊の首領と思しき男が姿を現した。
 ずんぐりした体形、みたところ中年と壮年の間といった年格好。余裕綽々といった貫録を発散させているが、左目を隠しているアイパッチが、彼が死地を潜り抜けてきた歴戦の強者であることを無言のうちに物語っている。
 首領は悠然とした足取りで我々の船に乗り移ってくる。その様子は実に手慣れていて、勝手知ったる他人の家といった風情すら伺える。
 首領はあたりを見渡すと微笑みを浮かべながら誰に云うでもなく独り合点に云った。「いくら長い付き合いとはいえあの社長もなあ……とはいえ、世の中は持ちつ持たれつだからな
 この方々はですね、と首領に向かって何事かを話しかけようとした我々の船長を制して、私は首領に向かって名乗りを挙げた。「我々は復活した魔王討伐に向かう伝説の勇者の末裔、その一行である。平和を妨げる悪漢を討ち果たすのもまた我らの目的とするところ、いざ尋常に勝負せよ!」
 いざ尋常に勝負、とは少し時代掛かっていたかなと僅かに気恥ずかしくなったが、すぐにえいっと裂帛の気合いを入れて気恥ずかしさを追いやる。


 首領は相変わらず余裕に溢れた様子でこちらを眺めている。「戦うのはいいけど我々も強いよ? 世界中の海を制圧してる海賊ネットワークを統括してるの我々だし、こういう腕力が必要な場合に備えていろんな武道を身に修めた若いのを用意してるし」
 首領の台詞に合わせるように海賊船の甲板に手下と思しき十数人の若者が姿を現した。いずれもその肉体ははちきれんばかりに鍛え上げられている。
 ちょっとこれはまずいかも。そんな思いが頭を過り少し膝が震える。えいっ、と再び裂帛の気合いを入れて脆弱な思いを振り払った。「いざ勝負!」
 私の言葉に首領の顔色が変わった。それまでの微笑が消え、海賊の首領に相応しい威厳を醸し出す。「かかれっ!」
 その声を合図に手下たちがうおぅ、と鬨の声を上げながら、我々の船に乗り移るべく続々とはしごの上を駆けてくる。迫り来る鬨の声に戦いの緊張感が高まる。
 だが、その鬨の声は突如として吹き上がった潮に遮られてしまった。荒れ狂ったように高々と吹き上がった潮は、一瞬のうちに手下たちを呑み込み海中に引きずり込んだ。図らずも彼らの鬨の声は断末魔の叫びに代わってしまった。