「あのね、下のお部屋にいたら見つけたの。ほら、ここに書いてあるでしょ? こまったらうみにながせ、って」
 手に取ってみると娘の云う通り、硝子瓶の胴の部分に小供が書いたような粗雑な字で”こまったらうみにながす のんだらだめだしぬ”と書いてある。
 いつの間にかそばにきていた船長が頓狂な声を挙げた。「ああ……これ! これは私が小供の頃に爺さんから貰ったやつだ。すっかり忘れていた」
「そういえば聞いたことがある」これもいつの間にかそばにきていた海賊の首領が続けて云う。「嘗て魔物が出た時代に、当時の海賊の首領がどこからか秘薬を見つけてきて海の魔物を殲滅させたって」
 これをお嬢ちゃんが流してくれたんだね、と海賊の首領が我が娘を優しく抱き上げ尋ねる。
「うん!」
「そうかそうか、偉いぞ」
「ありがとうー。片目のおじさんも頑張ったよね」
 こら、失礼な云い方をするんじゃない。と、娘を窘める。首領は笑顔のままで気にしなくていいよ、と優しく答える。と、首領は娘が胸に下げている王家の紋章に気付くと驚きを隠さずに云った。「あんたら、本当に伝説の勇者様の末裔なのか」


 紋章なら私も胸に下げているのだがと云うと、娘を下ろしながらあんたのは新品に過ぎていて偽物にしか見えなかった、と笑いながら云った。
 ふっと思い当たり、今回の騒動の発端となった襲撃を予告する矢文を見せた。首領は一読し「やっぱりあの社長の企みだったか」と苦々しい表情で呟いてから頂戴します、と断り懐にしまい込んだ。
 首領は続けて、我々海賊と伝説の勇者とは嘗て繋がりがあったと話し始める。
 嘗て、魔王を封印した我が祖先は、愛用の剣の管理を何故か海賊に委託してきのだと云う。その後、剣は程なく海賊の手によりララミーの商人に二束三文で売却されてしまったという。
 我々がいまその剣を探していることを話すと、首領は盛んに自らの祖先の行動を詫びた。
 しきりに詫びる首領に、何百年も前のことですから気にしないでくださいと云い、実は最近ララミーで剣の噂を聴いた人があり、我々はいまそこに向かおうとしていると告げた。
 首領がそれに返答をするよりも先に、この船の船長がおずおずとした様子で口を挟む。「その件なんですが……魔物にやられて船が動かなくなってしまいまして……」