えっ、と言葉を失った私に今度は首領が、それならウチの船で行けばいい、と文字通りの助け船を出してくれる。ここまでくればたとい相手が海賊だろうと断る道理はない。
 斯くして一行は海賊船に乗り込み呉越同舟の態で発進した。
 船は順調に航海を終え、ララミーの街に行くにはここが最短、という小さな港に寄港した。船を降りた我々一行は首領と船長に礼を述べた。首領は娘の前にしゃがみ込み、まるで親戚の叔父さんのような優しい口調で云った。「いいかい、これからお船でどこかに行きたい時には、海賊の人に頼むんだよ。みんな、この片目のおじさんの仲間だからいつでもすぐに飛んでいくからね」
 首領が云うにはいまやこの危険に満ちた世界で、場所を問わず海上交通が出来るのは自分たち海賊しかおらず、また、そのネットワークを統括しているのは自分である、魔王を倒してもらいたいという願いは人類の共通するところだ、何より先ほど魔物を共に討ち果たした仲間なのだから、と今後の協力を約束してくれた。
 どの港町にも必ず海賊と気脈を通じている人間がおり、その者に頼めば近場にいる海賊がすぐに駆け


つける、と海賊を呼ぶ手筈を教えてもらった。
 海賊船は港を離れていく。陸上の我々と船上の船乗りたちとが互いに手を振り別れを惜しんだ。船は次第に小さくなりやがて水平線の彼方に消えた。
 探し求める剣は手に入らなかったが、代わりに海上交通の手段を獲得した。しかしその充足感にいつまでも浸っているわけにはいかない。こうしている間にも復活した魔王は世界に魔物を送り込み人間を苦しめている。一刻も早く魔王を討ち果たし、世界に平和を取り戻さなくてはならない。
 だが、いまはとにかく傷つき疲労困憊した体を休めたい。眠り、食べ、飲み、生命力を、魔力を存分に回復させたい。
 我々一行は港のすぐそばにある宿屋(主人がここは船宿ですから船員以外のお客様は宿泊できないと再三再四に断るところ、王家の紋章を示しつつ強引に泊めてもらった。地位を利用して良い目を見てははいけない、と娘に云って聞かせたような気もするが、今回ばかりはそうしなければ全員死んでいた)に投宿した。それから三日間、泥のように眠り続けた。夢の中に船舶会社の社長が出てきた気がしたが目覚めた途端に忘れてしまった。今後、あの社長と会うこともないだろう。【to be continued……】