「お連れ様でしたら先ほど……日が昇る少し前にお立ちになられました」フロントにいた宿の主人に尋ねるとその職業的態度を崩さぬまま教えてくれた。
我々に対する伝言のようなものは特になく、主人に目礼と笑みをして宿を後にしたという。
我々は部屋に戻り、それぞれ武具を身に付けると取るものも取りあえず大魔道士の捜索に出る。
まずは街の住人に聞き込みをしてみるが大魔道士の姿を見たものは無かった。
そのまま街を出て手分けをして辺りを捜索する。娘に宿で待っていなさいと云い聞かせるが、今回ばかりは聞き分けを持たない。大魔道士がいなくなった責任を娘なりに感じているらしい。その気持ちは汲んでやらねばなるまいと思い、娘の小さな手を引いて捜索に出た。
日は中天を過ぎた。だが大魔道士の姿は見当たらない。一旦、捜索を打ち切ることにした。娘は泣いて捜索の続行を懇願したが、この近辺は魔物も強くひとりで行動を続けるのは危険だ、我々が斃れてしまったら元も子も無い、と娘に噛んで含めるように話す。娘は不承不承ながら理解を示した。
街に戻り吟遊詩人と神父と合流する。聞けば、やはり何の手がかりも見つけられなかったという。
そのまま宿に戻り部屋に入る。皆で車座になって今後の対応を決めようとしたところで私の腹がぐうと鳴った。
こんなときでも腹は減る。思えば朝からここまで何も食べていない。そう思っていたら一同の腹が次々に鳴りだした。私たちは顔を見合わせて少し笑いあう。こんなときだからこそ何か食べなければならない。思えば朝から何も食べていない。
宿の主人にそう云って遅い昼飯を誂える。近所の飯屋から運ばれてきたその料理を腹に収めながらこれからについて話し合う。
何の手がかりも無い今の状況で大魔道士を探し出すのは不可能、とは云わないまでも相当に難しいだろう、それよりも、いまは魔王の討伐に向けて前進をするのが最善だ、との結論に達した。
大魔道士になついていた我が娘はその結論に不満を表していたが、元より道理の解らぬ子では無い。懇切丁寧に説明をしてやると、解った、と云ってくれた。
だが、それからしばらくの間、娘は私たちと口を利かなくなった。小供らしい反抗とわかっていても我が娘に意思の疎通を拒否されるのは親として辛いものだ。