神父の発案により、まずはこの近くに住んでいるという刀鍛冶の元を訪れることにした。神父が云うところによれば、その刀鍛冶は嘗て、我が祖先が愛用した剣、すなわちいま私たちが追い求めている伝説の剣を打った職人らしい。無論、いまでは代が替わっているだろうが、ひょっとしたら伝説の剣に比肩する剣を新たに打ってもらえるかもしれない、と考えたのである。
早速、荷物をまとめて出立する。宿代を取ろうとしない主人に無理矢理、宿代に相当する金を押し付けるようにして渡し宿を引き払う。
ララミーの街から北東に向かって二時間ほど歩いた。娘は相変わらず口を利いてくれない。やがて、我々の目の前に、これが平和な時代であればさぞや快適な森林浴が出来るだろう、と思えるような林が拡がる。
林の中を進むこと暫し、一軒のバラック建ての粗末な小屋が見えてきた。小屋の周囲には刀鍛冶に使うのだろう、見た事も無いような道具が雑然と置かれている。だが、その雑然が却って如何にも職人の働く武骨な仕事場という印象を形作っている。
「あの頃と変わらない」そう呟いた神父が先頭に立って小屋に近付きドアをノックする。
だが、何の応答も無い。いま一度ノックをするがやはり何の応答も無い。
「開けちゃえば」我が娘のぶっきらぼうな言葉に押されるようにして、神父がドアノブを回す。かちゃり。鍵はかかっておらずドアが開く。
少し開いたドアの隙間から中を覗く。「???」
小屋の中にはこちらに背を向けて立っている、おそらくは若いと見える男性が一人。いや、立っているというのは語弊がある。正しくは、若いと見える男性が踊り狂っていた。
「あのう」私が恐る恐る声をかけるが男性は気付かず踊り狂ったままだ。
どのくらいの時が過ぎたのだろう。手を振り足を蹴り上げ、頭の天辺から足の先まで関節という関節をくねくねさせて男性は踊る。ついには奇声を上げながらくるくると独楽のように回り出した。
タン! と大きくステップを踏むのと同時に両手を拡げて回転を停止する。結果的にこちらを向くこととなった男性の顔は、思わず目を逸らしたくなるような満面の作り笑顔。顔といわず体といわず全身から汗が吹き出ている。額には汗を拭くんだ前髪が張り付いている。だが、その視線の先にいるはずの我々に気付く様子は無い。