「あのう」再び私が声をかける。
 男性は満面の笑顔のまま眼球だけを動かしてこちらに視線を送る。とたんに満面の笑顔が消え失せ、不審がそれに取って代わる。「どちら様っスか?」
      * * *
 神父が云った通り男性は、嘗て伝説の剣を打った刀鍛冶の子孫であった。しかし刀鍛冶は既に彼の祖父の代で廃業しており、彼も、いまはプロの踊り手になるべく日々稽古を積んでいるのだという。
 さわやかな笑顔、絵に描いたような美男子、それでいてどこか軽薄な印象を与えずにはおかないこの男性の話す姿を眺めながら、旅の完遂がこれでまた遠のいたと、何やら絶望の入り口に立ったような切ない気持ちを抱いた。
「伝説の勇者が魔王の魂を封印したすぐ後に、国からの命令で刀を打つことが禁止されたらしいっス。それからは普通の金物を作ってたんだけど、それもオレのじいちゃんの代でやめたんっスよ」彼の話によればいま売られている刀は所謂、大量生産品なのだという。
 そういう剣には魂がこもってないっスよね。と、覚えず男性と同じ軽薄な口調で云ってしまってから小屋を辞した。



 外に出てから、振り返り改めて小屋を眺める。職人の仕事場らしいと見えた数々の道具も、よく見ればホコリを被っていたり、雨ざらしになっていた為だろう赤錆が浮いていたりした。過度の期待はやがて思い込みへと変じ人の目を曇らせる。
 また私たちは途方に暮れた。剣の行方は杳として知れない。これから、一から情報を集め直すにしてもいったいどこから手を付けていいのか皆目見当がつかない。かといって、このまま伝説の武具が揃わぬまま魔王と対峙するわけにもいかない。
 どうするべきか。この分だと伝説の剣を見つけるまでに私の生涯が終わってしまいそうな雲行きだ。やはり過去に戻り、我が祖先から剣を借り受けるのが手っ取り早いように思う。その為には大魔道士の力が必要だ。だがその大魔道士は忽然と姿を消してしまった。ならば剣をなんとか自力で見つけたいがその手がかりは無い。やはり大魔道士の力で……考えが堂々巡りに陥る。
「もしかして、おうちにかえっちゃったのかなあ、おねえちゃん」娘がぽつりと云った。
 おうち、か。おうち。おうち……。
 その刹那、これまでに何度となく見てきた大魔道士の泣き顔が脳裏に浮かんできた。