娘が背負っている小さなバックパックから地図を取り出して拡げる。現在位置と、大魔道士と出会った街のある位置とを見比べその距離を測る。
 少なく見積もって一日、多く見積もっても三日あれば大魔道士の生まれ故郷にたどり着けるだろう。
 剣に関しては既に万策尽きた。一方、大魔道士の居場所に関しては探してみるべき場所がある。たとえ蜘蛛の糸のような細く果敢無い手がかりであっても、いまはそれに縋る他は無い。こうしている間にも魔王の脅威が迫っているのだ。
 ララミーの街に戻り、道具屋の夫妻に移動手段について相談を持ちかけると、近所の牧場を紹介してくれた。そこへ行き馬車を借り受け、馬丁を一時的に雇い入れる。
 駆け通しに駆けて一昼夜、明くる日の夕刻前には大魔道士の故郷であるクリメールに到着することができた。ここから大魔道士と初めて出会った、その生家まではほんのわずかの距離だ。直接馬車で乗りつけてしまっては繊細な彼女のことだ、驚いてどんな応対をするか計り知れない。やはりここからは歩いていったほうが良いだろう。
 また利用するからと街の外に馬車と馬丁を待たせておいて街の中に入っていく。



 挨拶だけでもしておこうと、いつぞや大変に世話になったクリメールの宿屋に向かう。
 あったー! と嬉しそうな声をあげて宿屋に向かって駆け出す娘。その後を追うようにして早足になって宿に向かう。
 ついに宿屋に到着した、と思ったところへわけがわからない。宿の外を散歩していたらしい二人のおばさんが、満面に笑みを湛えつつ私たちに向かって駆け寄ってきて尋ねる。「ご末裔様じゃございませんこと!?」
 そうだと返事をすると、おばさんたちはその年齢層に相応しい遠慮のない態度で私たち、とくに私を取り巻いてべたべたと体を触る。
「ありがたいねぇ」おばさんたちは口々にそう云って相変わらずべたべたべたべたと体を触る。
 先を急ぐといってその場から辞そうと謀ったが、おばさんたちがそれを許さない。いつまでも私の周りにまとわりついては、あれやこれやと話しかけてくる。
 しかたがない。そう思ってわざとぶっきらぼうにおばさんたちを振り切って宿屋に向かって歩を進めていく。だが、おばさんたちはそれを許さない。なおも私に追いすがってくる。