こんなに柔らかくてよく跳ねる素敵なベッドは初めてだと、大喜びでマットレスの上をぴょんぴょん飛び跳ねている娘を微笑ましいような思いで見つめながら出立の準備を整える。準備といっても宿泊に当たって荷解き等々をしたわけではないから為すべきことはさしてない。荷崩れ等の確認/修正と地図を改め進むべき街道の確認をするぐらいだ。
それらが済んで手持ち無沙汰となったところへ再びメイドが現れ晩餐の支度が出来たことを告げる。メイドに先導されて一同は部屋を出る。
案内された先は披露宴でも出来そうな大広間。中央に置かれた巨大なダイニングテーブルの上には所狭しと豪華な料理が並べられている。既に上座に着座し我々を待っていたらしい王妃殿下から「どうぞお召し上がりください」と促され料理を口に運ぶ。いずれも口に入れた途端、覚えず笑みが浮かんでしまうほどに美味い。明日は一番で長距離の移動があるのだからあまり食べ過ぎてはいけない、と我が娘に注意を与えようと思ったときにはもう、我が娘の口の回りは各種のソースに塗れていた。だが天使のような笑顔で一心に料理を頬張る娘を見ていたら何も云えなくなった。王妃殿下の様子を窺うとそんな娘の様子を慈愛に満ちた様子で見つめている。
良い食事の空間は卓を囲む人々の距離をグッと近づける。最前、閲見の間で対面した際と比べてぐんと砕けた会話を王妃殿下ならびに大臣と交わすことが出来た。その中でいまは不在の国王、すなわち伝説の勇者である我が祖先の話題に話が及んだ。
大臣が近衛兵からの情報だとして話したところによれば我が祖先である国王は現在、占い師の元に現れたことが確認されているという。それを聞いた王妃殿下はまたですか、と半ば呆れたような反応を見せる。聞けば我が祖先である国王は、大臣らとともに魔王の魂を封印するたびの途中にも、決断を迫られた際に自らの意思で決定することが出来ず占いに頼ることが間々あったらしい。
他にもいろいろ我が祖先である国王の話を聞いたが、総合すると王妃殿下および大臣はその人間性についてあまり高い評価を与えていない節が伺えた。伝説の勇者、建国の父と思って偉大な存在と崇めてしか来なかったからそうした評価に少しく面を喰らったのは事実だ。が、得てして人間というのは多面性を持つもの。たとい歴史に名を残す偉人であっても同時代を生きる人々にとっては欠点も目に付くのもまた至当、寧ろそれによって我が祖先の存在を我々と同じ人間であると認識することが出来た。