晩餐は程の良いところで散会となった。もう食べられないと目を白黒させている我が娘を除いてはいずれも適当なところまで呑み、食べ、その結果、最適な塩梅で英気を養うことができた。改めて王妃殿下に謝意を述べてから大広間を辞する。
 客間に戻れば我々にはもう為すべきことはない。明日の遠征に思いを馳せつつ早々に床に就いた。
 夜半、小さな物音がしたような気がして不図、目を覚ました。暗い部屋の中を目を凝らして見回してみると、部屋の中をうろうろしていたらしい我が娘がベッドの中に潜り込むのが見えた。
 「どうした」と声をかけると何のことはない、トイレに行っていただけのことらしい。晩餐を食べ過ぎてお腹でも壊したたのではないかと思ってそう尋ねたが、それに対する我が娘からの返答はなく、代わりにすうすうという寝息が聞こえてきた。これなら心配には及ばないだろう。そう考えて娘の寝息を聞きながら再び眠りに落ちた。

 翌朝、日の出前にはもう全員が起き出していた。それぞれが逸る気持ちを抑えるように丁寧に身支度を整えている。朝日が昇り始めた頃になって近衛兵から馬の用意が出来上がったという報知を受ける。いつでも出立して良いという合図である。



 近衛兵にすぐに行くと返事をする。「諒解しました」と踵を返して近衛兵が走り去っていく。俄に城内が動き出した空気を感じながら荷物を背負い込み客間を後にする。
 我々の登場を待ちかまえていた最前とは別の近衛兵が城門まで先導する。歩を進める皆は無言。心地よい緊張感と共に城内を進む。
 城門は既に開かれていて、王妃殿下ならびに大臣以下、城内の人間の大半が見送りに来ていた。
 「どうぞお気を付けて。剣を獲得したらすぐにここに戻ってくるのですよ。あなた方が元の時代……七百年後の時代に戻る方策について検討しなければなりませんからね。そろそろムーンゲートも開く頃でしょうし」王妃殿下にそう云われて、剣の獲得ですべて事足りるわけではないことに思いが至った。我々には戻らねばならぬ場所がある。
 王妃殿下が云った「ムーンゲート」がいったいなんなのか判然としなかったが、それでも気持ちを締め直して用意された馬に乗り込みゆっくりと発進させる。背後に聞こえる人々の騒めきが次第に遠ざかっていく。その中にふっと我が祖先の存在を感じて辺りを見たがそれらしき様子は伺えなかった
【to be continued...】