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■消費者の意識を変えていかなければならない
—— お話を戻しますと、S社さんもK社さんもCDや書籍の未来は、消費者に如何に購買体験を与えるか、ということになるとお考えなんですね。
音楽K社 当然でしょ。手に取れる形にしてユーザーに渡さないと。
書籍S社 それがモノを作り、売るものが持つべき姿勢であり矜恃です。
—— そこで問題になってくるのが、昨今では当たり前になったダウンロード販売だと思うのですが。
音楽K社 対応はしてますよ。ねぇ(と、書籍S社に)。
書籍S社 ええ。スマートフォンやタブレット型端末の普及は、我々にとってもチャンスですから……チューハイ、おかわり!
音楽K社 このワカサギ美味いな。
—— ですが、先ほどからのご意見である”購買体験の提供”という意味合いからすると、ダウンロード販売は、それには向かない形態ではないかと思いますが。
音楽K社 いや、ね、それはまあそうなんだけど、でもそれについては大丈夫ですよ。とくに我が音楽業界は。
—— 大丈夫? ずいぶんと自信がおありのようですね。傍から見る限り、安穏としていられる状況ではないように見えますが……。
音楽K社 いやいやいや、考えてもみてよ、我々音楽業界には「着うた」っていうダウンロード販売の輝かしい実績があるでしょ? そのへんのノウハウは充分に蓄積されているから。
—— はあ。しかし「着うた」はもう過去の遺物というのが多くのユーザーの認識ではないでしょうか。いまやダウンロード販売といえばiTunes StoreやAmazon MP3を指すのが当たり前になっています。
音楽K社 でもね、AppleにしろAmazonにしろ所詮は海外の企業でしょ? やっぱり日本の商習慣にはどこかそぐわないですよ。
—— どのあたりがそぐわないと感じられますか。
音楽K社 独占しようとしすぎるんだよね。我々は、同業他社と競争をしながらも、基本的に協調性をもって業界を盛り上げ、市場を形作ってきました。ところが、AppleにしろAmazonにしろ、もうね、自分のことしか考えていない。業界の秩序も何もあったもんじゃない。
—— しかしそれは売る側の問題で、購買する側にとっては、まったく関係のない……
書籍S社 (聞き手を遮り)K社さんの言う通り! あいつらは自分たちが良ければ他はどうなってもいいと思ってるんですよ。我々はね、作家や編集社だけじゃなくて、印刷所や流通や書店の皆さんの生活のことまで考えてるんですよ。AppleやAmazonがそこまで考えていると思いますか? 考えているはずがない! 見て御覧なさい、あいつら、我々が苦手にしているとわかっていて、ワザとネットでの販売を強力に推し進めたりしてるじゃありませんか。そういう小狡いことが平気で出来る連中ですよ。だから、あんな奴らに市場の主導権を握られちゃいけないんだ! チューハイ、おかわり!
—— だいぶピッチが上がってきましたね(笑) ですが、音楽にせよ書籍にせよ、ダウンロード販売が驚異的に伸びているのは事実です。それは消費者の志向がそちらに向かっている何よりの証拠ではないでしょうか。
音楽K社 言い難いことだけど……それは消費者にも問題があるよね。本当はこんなことを言ったらいけないんだろうけど。
—— まあ今回は酒の席ということで、ぶっちゃけてください。
音楽K社 ダウンロード販売の先にはなにがあると思う?
—— は? はあ……先、ですか?
音楽K社 違法行為ですよ。
—— と、言いますと、海賊版の横行など、ですか?
音楽K社 そう。データでダウンロードが出来るってことは、複製も配布も簡単にできちゃうってことだもん。プロテクトなんてすぐに破られちゃうし。そうなりゃあ、するでしょ、消費者は。
—— いやあ……一概にそうとは言えないのでは。
音楽K社 いや、言える。なんてのかなあ、ダウンロードは消費者の犯罪に対するハードルを下げちゃうんだよ。居ながらにしてすぐに手に入るでしょ。店まで買いに走ったり、注文して手許に商品が届くような”間”がないんだ。だから商品としての価値がどうしても下がる。価値が下がるから、簡単に違法にアップロードしたり、ダウンロードしたりするんだ。
—— そういうものでしょうか。
音楽K社 そういうものなんだよ。日本音楽協会が調べたところによると、違法ダウンロードによる損失は6000億円を超えてるんだから。これは見過ごせない数字でしょ。ねぇ(と、著作権J社に)。
著作権J社 ええ。その損失はおよそ6683億円と試算されています。これだけ巨大になってしまうと、我々がどれだけ厳しく監視し、取り締まったところで焼け石に水です。おまけにアーチストや作家の権利を守るべく、一生懸命に活動すればするほど、ネットユーザーから蛇蝎の如くに嫌われる(笑)
書籍S社 ああ、マジでネットの奴らはダメだね。所詮は素人のくせに、能書きだけは俺たち本職以上に垂れやがる。チューハイおかわり!
—— とはいえ、これだけ普及したネットの存在を無視するわけにはいかないと思いますが……。
音楽K社 いずれにしてもやっぱりまずいでしょ、ダウンロード販売は。本来、得られるはずの売り上げが違法ダウンロードに掠め取られることと、背中合わせなんだから。
—— しかしその言い方ですと、まるで消費者が泥棒であるかのように聞こえてしまいますが。
音楽K社 泥棒? ……ま、我々は事実を言っているまでのことですんで、受け取り方はそちらにお任せします。でもね、ひとつ確実に言えることは、音楽も、書籍も、ダウンロード販売に覇権を握られたが最後、市場は荒らされ、アーチストがアーチストとして存在できなくなってしまいかねないということなんですよ。
—— そうした流れに関係する事柄として、違法ダウンロードの刑事罰化も決まりました。
音楽K社 ようやく世の中が正常なほうに向かって動き始めたね。
—— ですがいまのところ、目立ってCDの売り上げが回復している、というところにまでは至っていません。寧ろ、試聴する機会を奪われた格好にすらなっています。テレビの音楽番組も減っていますし、ラジオは既に若い人たちには聴かれなくなっています。
音楽K社 だからお店に行きなさいよ。試聴コーナーとか用意してるんだから。
—— 都心では既にCDショップ自体が少なくなっています。加えてヒットチャートの上位もAKBと嵐が独占しているばかりで、この2組がいなかったらと想像するとゾッとするような惨状です。とても法律を始め、皆さんの取り組みが功を奏しているとは見えないのですが。
音楽K社 そりゃ、効果というのはすぐに現れるようなものではありませんよ。これから時間をかけて、消費者を教育し直そうとしているところなんだから、音楽はCDなどの形あるメディアで聞くべきだ、とね。
書籍S社 チューハイおかわり!
—— なるほど。お話を伺う限り、その道のりは険しそうですね。いまや家電量販店でも、CDプレイヤーの販売スペースはずいぶんと小さくなっています。ラジカセも同様で、スマホやiPod、ウォークマンなどを使いこなせない高齢者向けの商品、といった様相を呈しています。パソコンの世界でも、ネットブックを中心にCDやDVDのドライブが搭載されていないものが増えています。従って、再生機器を入手する機会から作っていかなければなりませんね。
書籍S社 チューハイおかわり!
音楽K社 ……こっちにもチューハイちょうだい。
Vol.03 【4Kテレビに死角なし】
▶大手家電メーカー編Vol.02 【ネットに掠め取られた視聴者】
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Vol.01 【まとめサイトにやれんのか!?】
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