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■すべてをコントロールするのは……
—— それでは、佐藤秀峰さんのようなすぐれた作品を生み出し、読者からの評価も得ている漫画家であっても、インターネットに与する以上、皆さんにとっては裏切り者だと?
書籍S社 あったり前ぇよ! あんなものは、Googleに尻尾を振って地図データを提供してるゼンリンとおんなじで裏切り者だ! 見てみろ、いまや地図を主力に販売していた書店は仕方なしに古地図ばかり売る羽目に陥ってるじゃねぇか! みんなそうやってなあ、インターネットが作った新しい時代とやらの陰で泣いてるんだよ! ばかやろう! つーか、おれも泣きてぇよ! 本屋からはAmazonばっかり優遇してるって疑われて、上司からは電子書籍を推し進めろ、ただしAmazonとAppleには取り込まれるな、独自の市場を立ち上げろとか無茶なことばっかり言われて……これも全部インターネットが悪いんだ! ネットがなければこんなことにはならなかったんだ! インターネットなんか国で規制しろ! 当初の目的の通り戦争目的だけの利用に限定するとかしろーっ! うわああああんっ!(突っ伏して泣き出してしまう)
著作権J社 ああ、この人、酒乱の上に泣き上戸だったんだ。
—— え、と……そう大泣きされたところで、時代はもう変わりません。皆さんが完全に市場をコントロールしていた頃に戻ることはないかと思います。
書籍S社 (ぬっと顔を上げて)……なんだ手前ぇこの野郎、まだ俺たちを悪く言うのか。
音楽K社 ああ、いまの言い方はS社さんならずともカチンと来るなあ。
著作権J社 ええ、まさにネットユーザーの悪しき物言いそのものですね。私たちのことを過去の遺物と決め込んで蛇蝎の如くに嫌う。
—— いえ、そんなことは……私が言いたいのは良いとか悪いとか、そういうことじゃなくて、飽くまで事実を言っているつもりです。時代は変わってしまった。皆さん方がどれほど抗ったところで過去は戻ってこない、と。
書籍S社 く……くそう……所詮は貴様もインターネットの流行に乗っかる人でなしか。
音楽K社 ほんと、ネットから出てきた連中ってのは失礼だよ。先人に対する尊敬の気持ちがぜんぜんないんだ。
著作権J社 そうそう。物事の真贋を見極める目などないくせに、すぐに人を時代遅れと言って蛇蝎の如くに嫌う。
—— あなた方の目にはそう映るかもしれません。ですがそれは誤りです。そもそもあなた方の認識が間違っているです。インターネットは流行などではありません。新しい社会のインフラであり、エンターテインメントの空間であり、コミュニケーションの場所なのです。
書籍S社 そんなことは知らん! インターネットがどれだけ普及しようが常に正しいのは私たちだ! 私たちが考える通りに市場をコントロールし続けるんだ! それが書籍にとって、音楽にとって、アーチストや作家の権利を守ることにとって、絶対的に正しいことなんだ!
—— いや、しかしですね、現実は——
書籍S社 貴様、まだ俺たちにグズグズと文句をつけるのか! いい加減にしやがれ、このインターネットの悪の手先めっ!(激高して聞き手につかみかかってくる)
—— わ! わ! なにをするのですか! 苦しい! 苦しい! そんなに強く首を絞めたら苦しいじゃないですか!
書籍S社 くそっ。くそっ。どいつもこいつもインターネットの流行りにのせられやがって! 貴様が読者やリスナーを洗脳して、泥棒まがいの怪物に育てちまったんだ!(聞き手の首根っこを掴んで激しく揺さぶる)
—— やめてください! やめてください! K社さん、J社さん、止めてください!
音楽K社 いいや、止めないよ。あんた、今日は完全に俺たちを怒らせようとしていたからな。むしろ加勢してやるべきものだ。こうして、な!
—— うわっ! 飲み残してあるチューハイをひっかけないで!
著作権J社 自業自得ですね。私たちを蛇蝎の如くに嫌ってきたネットユーザーが受けるべき報いですよ。
—— つめたい! つめたい! 氷が背中に入って冷たい! もう勘弁してください! 私は消費者の立場から素直に言ったまでなんです! 私は消費者の意見を代弁しているのです!
書籍S社 なに!? 消費者の意見を代弁してるだと!? それを聞いてますます勘弁できなくなった! いいかよく聞け! 貴様がいま味わっている苦しみこそが、俺たちが日々、消費者からイヤってほど味わわされている苦しみだ! 思い知れ、貴様! いや、思い知れ、消費者ども! さあっ! J社さんも一発かましてやってください!
著作権J社 ……(にやり)。
—— あ! あ! J社さん、どうしてにやっと笑ってから後退りをする……あっ! K社さん何をする! どうして後ろから羽交い締めにする!
著作権J社 ぬおおおおおおおおおおおっ!
—— ああああっ! J社さんが奇声を発しながらこちらに向かって駆け込んでくる! 殴られる! 殴られる! 助走で勢いをつけた強烈なパンチを浴びせられてしまうっ!
著作権J社 うりゃああああああああっ!
—— ぎゃあっ!! ……むぎゅう(失神)。
書籍S社 思い知れ! 思い知れ! 俺たちの苦しみを思い知れ!(馬乗りになって殴り続ける)
音楽K社 わははははははは! いいぞいいぞ! もっとやれ! もっとやれ! わははははははは! 俺たちに従わなくなった消費者よ、思い知るが良い!(飲み残してあったウイスキーその他を聞き手に浴びせかける)
著作権J社 人を蛇蝎の如くに嫌う、クソ生意気なネットユーザーの人身御供となってこの報いを受けるのだ!(こぶしを突き上げ獅子吼する)
書籍S社 時代は変わらん! 俺たちが変えさせない!(殴り続ける)
音楽K社 インターネットがなんぼのもんじゃ!(飲み物をかけ続ける)
著作権J社 すべてをコントロールするのは我々だ!(絶叫しながら走り回る)
一同 うおお! うおお! うおお! うおお! うおおおおおおおおお!
斯くして、三者の狂気じみた饗宴は果てしなく続いた。その姿は、時代の流れに押し流されつつある現状を認めようとせず、ひたすら時代に抗おうとする彼らの現在そのものであった……。
今回の参加者
【音楽K社:ニューメディアクリエイティブ企画室 副室長A氏】
【書籍S社:コンテンポラリーコンテンツ部 部長B氏】
【著作権J社:ネットパトロール課 課長C氏】
【聞き手:国松アレクサンドラ隆夫,IT・人】
次回(Vol.5)は遠隔操作事件に振り回される警察関係者にお話を伺います。
Vol.03 【4Kテレビに死角なし】
▶大手家電メーカー編
Vol.02 【ネットに掠め取られた視聴者】
▶テレビ局員編
Vol.01 【まとめサイトにやれんのか1?】
▶四大新聞記者編