■迷惑メールはもちろん、ネットは"人"ありきなんです。
――ど、どどどんな秘策ですか!?
山田 まだ実験段階なんですが……受け取る側が求めている情報に合致した、宣伝メールを、個別に確実に送り届けることです。
――へ? 受け取る人、個人の趣味嗜好に合わせた情報が記された迷惑メールを送り付ける、ということですか。
山田 そういうことです。
――というと、検索サイトと連携をなさるのでしょうか。あるいはショッピングサイトと連携をして、個人の購買履歴などを融通してもらうなどするのでしょうか。
山田 いえ、分析をするのです。
――いったい何を分析されるのでしょう。
山田 これは説明をするよりも、実際にお見せしたほうがよろしいでしょうね。(ここで山田氏はご持参のPCを操作し、あるプログラムを起動して、私に操作を促す)。お手数ですがサワダさん、こちらに適当なメールアドレスを打ち込んで頂けますか。あ、@マーク以降は実在のプロバイダ名を入れてくださいね。
――(saimagonro12@yapoo.jpと即興で架空のアドレスを打ち込んだ。意味のない文字の羅列である)どうぞ。
山田 (PCの操作をする。一分と経たないうちに……)わかりました。沢田朋子さん、28歳、独身、未婚、職業はフリーライター、家族構成はご両親がご健在で弟さんと妹さんがひとりずついらっしゃってご家族と同居、休日にはスポーツジムに通いたいと思いつつ実際には家でボーッとしていてネットウォッチングで日が暮れてしまう、友達は多い方、買い物は繁華街よりも近所で済ます事が多く贅沢はしない……如何でしょう?
――いやぁ……お、おみそれいたしました。
山田 メールのアカウント部分に、いくら目茶苦茶な文字を並べたとしても、そこには確実に個人の深層心理が影響しているんですよ。人間の心というのも、千差万別のようでいて、分類をするところまでは以外と出来るものなんです。ましてやメールアドレスは大抵意味のある文字列になっていることが殆どですから、それが解ればマス間違いなく個人の趣味志向や性格を判別することが出来ます。このシステムの開発には、先ほど名前を挙げました「MO-FU」の内之倉を中心とした技術部があたり、更には、いまはまだお名前を明かせませんが、さる高名な心理学の教授や脳科学の教授の方々にご協力をいただいています。
――重ねておみそれいたしました。
山田 こうして分析された結果を元に文面を作っていくわけです。これによって、たとえば同じ出会い系サイトであってもどの年代に送るのか、同じ年代であっても会社員に送るのかフリーランスに送るのか、といった具合に、送る先によって文面を変える事が可能になるわけです。このシステムを利用すれば、これまで悩まされてきた好ましくないフォロワーも、私どもに追いつくことは出来ないと思います。
――追いかけることすら無理だと思います。いや、貴重な体験をさせて頂きました。これこそ迷惑メールの革命ですね。
山田 はい。それだけではなく、葉書の時代から続いてきたDMの革命にもなると信じています。これが実用になった後には、サワダさんも「迷惑メール」とは呼ばず、私どものように「宣伝メール」と呼ぶようになる筈です。
――皆さんのような方々がいらっしゃることに思い至らず、考えも無しに"迷惑メール"といって邪魔者扱い・ゴミ扱いをしていた自分が恥ずかしくなりました。それでは最後に、今後の展望をお聞かせ願えますでしょうか。
山田 やはりツイッターなどのミニブログですね。
――それらミニブログ上での宣伝、ということになりますか。
山田 それも勿論あります。私どもが手がければ、先日、ツイッター上でとあるコーヒーメーカーが起こしたような、スパムまがいの事件は起こさないという自信はあります。ですが、私どももミニブログの世界では素人ですから、まずは宣伝以外の部分での新機軸を展開して行きたいと思っています。
――具体的なことを、可能な範囲でお聞かせ願えますでしょうか。
山田 「つぶやき代行業」を現在始めています。ミニブログの基本は、個人や企業がネット上の世界と繋がりっぱなしになるということだと思います。宣伝メールのように情報を送り届けるのではなく、発信し続けているものを見ている皆さんのほうから能動的に受け取りに来て頂く。しかしそれを滞りなく実現する為には、選任の人を置かなくては現実的には無理でしょう。時と場合に関わらず発信し続けなくてはいけませんからね。とはいえ雇用の確保すら難しい不況の現在ですから、それもまた中々難しい。その部分を私どもで代わりにつぶやこう、といったサービスを展開し始めているところです。
――見通しのほうは如何ですか。
山田 まだ採算ベースには乗りませんが、中々順調です。むしろ、ツイッター以上に、類似のミニブログからの引き合いが多くなっています。
ーーそれは何故なのでしょう?
山田 焦り、じゃないでしょうか。ツイッターの場合は特定企業の提供するサービスですから、システムであるブログの場合と違って、後発サービスはどうしても「ツイッターのパクリ」とのそしりを逃れられませんからね。それと意外だったのは、そうした企業さん以上に、個人からの引き合いが多いことです。学生さんや主婦の方々からの引き合いを沢山いただいています。
――それは、どういった心理から引き合いを出されているのでしょう?
山田 つぶやきの間隔が開いてしまうことで、知り合いに対して不安を与えたくないということのようですね。
――常に目立っていたい、ということではないのですか?
山田 どうもそうではないようです。突然アカウントを削除した人について、あの人は自殺をしたのではないか、いやいや既にもう死んでいるのだ、といった風説が流布されるということもあったようです。
――ネットで起きたことが、リアルの暮らしに影響を与えてしまったんですね。重要なお仕事になっていくのでしょう。
山田 しかしツイッタはまだしも、位置情報が重要になるグーグル・パズでそれらしくつぶやきの代行をするのはかなり大変ですよ。あっちこっちに移動しなくてはいけませんから(笑)
――他にはどのような事業を展開されているのでしょうか。
山田 その他のSNSに於ても、同様のともだち代行業を展開しています。リアルで友達の殆どいない方々にも、我々が架空の友達や仕事関係の仲間としてSNSで人間関係を構築するというものです。
――やはりネットも"人"ありき、なんですね。
山田 だと思います。我が社の高橋も、昔から「ナンパとは、相手の心の奥底にある"寂しさ"に毛布を掛けてやるって事なんだよ」と常々言っていました。宣伝メールも、また、チュイッターやSNSも、このネットの先には人間がいて、その人の心に暖かい毛布を掛けてあげるのだ、という意識を持ち続けていれば、"時代"という大きなベルトコンベアーに乗ることが出来ると思います。
――繰り返しになりますが、すべては"人"なんですね。本日は興味深いお話をどうもありがとうございました。
(取材・構成 サワダ・トモコ)
(※前回ご紹介させて頂いた、株式会社デジタルサクラ代表・鬼怒川筋子さんのインタビュー記事の初出時に、本来、鬼怒川さんの写真を掲載すべきところへ、誤って柴犬の写真を掲載してしまいました。鬼怒川さんをはじめ関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。なお、現在は写真を差し替えてあります。【IT・人
編集部】)
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