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98.7%の衝撃
某氏 つまりNOというのは「はい」と「いいえ」でいうと「いいえ」のほうのことで、
——いや、ですから言葉の意味じゃなくて!
某氏 ああ、すいません。つまりですね、私が「これはだめだ。商品としての魅力に欠ける」と判断した商品が世の中に送り出されていくんです。
——はあ……それは確かに普通とは真逆ですね。
某氏 でしょう? こんなことを仕事にしているのは、世界広しといえども、私ぐらいのものじゃないかと思います。
——ちなみに、これまでどんな商品に関わってこられたんですか。お答え出来る範囲で構いませんのでお教えください。
某氏 乾電池型の充電池なんかは、私がNOを突きつけたものですね。
——ヒット商品の域を超えて、すっかり私たちの生活に定着しています。
某氏 そうなんですよね。企画段階で示されたときには、エコの動きに乗っかっただけの軽佻浮薄なものに思えたんですけどね。いっときは話題になってもすぐに廃れるだろうと。
——それがいまや家電量販店では充電池のほうが、従来型の乾電池よりも販売スペースが広くとられています。
某氏 そうなんですよね。私も買い物に行くたびに苦笑いしてしまいます。
——他には、どういった商品に関わられました?
某氏 我が社がブルーレイディスク事業に参画するときにも、私の判断が決め手になったようです。
——えっ。じゃあ、実質的にはあなたが、○社がブルーレイ陣営につくことを選んだ、と。
某氏 いえ、ですから私はその反対の、HD—DVD陣営につくことを提案したんです。
——あ……そうか、逆なんですよね。
某氏 あれはいまから何年前だろう……社長直々に呼ばれましてね。ブルーレイとHD―DVD、どちらが魅力的に見える、と聞かれたんです。
——社長と一対一でですか。
某氏 ええ。私がHD―DVDと答えた瞬間、社長がにんまりと笑いましてね。その場で重役に連絡を入れて「ブルーレイで行くぞ!」と。
——仮に、そこであなたがブルーレイを提案していたら……
某氏 今ごろは我が社もT社さんのように、矢尽き、刀折れてブルーレイの陣門に降る……そんな格好になっていたでしょうね。そうなれば必然的に、ブルーレイ機器の市場で大きく出遅れていたことでしょう。
——まさに社運を変えた判断だったんですね。
某氏 後にブルーレイのレコーダーが予想以上に売れたときには、社長から金一封も出ましたよ。
——それだけ社長からの信頼が厚いんでしょうね。
某氏 信頼……うーん、まあ、そうなんでしょうね(苦笑)。とはいえ、よくぞ誤った判断をしてくれた、ということなので、個人的にはちょっと複雑なんですけど。
——いまの役職につかれて、どのくらいになるのでしょう。
某氏 ちょうど10年です。入社してから4年目のことです。
——その4年目までは、どのようなお仕事をなさっていたんですか。
某氏 マーケティング部で市場調査を担当していました。
——なるほど。いまの職種に移られる切っ掛けのようなものはあったんでしょうか。
某氏 あれは、入社してから2年目の時でしたか、市場調査をしている同僚たちで、遊び半分に市場調査の結果を予想していたことがあったんですね。
——仕事とは別の部分で。
某氏 はい。単調な仕事ですし、結局は調べるだけですから、仕事を終えたときの達成感も、自分が期待するほどにはなかったんですよ。そこで、市場調査を行う前に、その結果を若手の社員で予想して、結果が出てから、やれ当たっただの外れただのと言って喜んでいたんですね。まあ、他愛のない遊びです。
——どんな仕事によらず、目先を変えて気分を換えるのは大事なことですからね。
某氏 そのうちに缶コーヒーやランチなんかを賭けるようになったりして……あ、飽くまで缶コーヒーやランチだけですからね、賭けていたのは。
——わかってます。むしろそこは押さなくて良いです(笑)
某氏 そうやっているうちに、同僚のひとりが、私の予想がいつも外れることに気付いたんですね。言われてみれば、私が缶コーヒーやランチを用意する回数が明らかに多いような気がしていたんですね。それから統計をとるようにしてみたら、やっぱり私が予想を外していることがずば抜けて多くて。
——ずば抜けて。ちなみにどのくらい外していたんですか?
某氏 98.7%です。
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