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歴史を変えていたかもしれないD社との因縁
——そんなに!? それは逆にすごい。
某氏 同僚からは「お前の逆に張っておけば、まず間違いなく当たりが来るね」なんて冷やかされる始末で。結局、あんまり私が予想を外すので、ということは他のみんなばかりが当たるようになって、私がコーヒーやランチを用意する回数がバカにならなくなっちゃったので、予想の遊びが自然消滅になっちゃったんです。
——98.7%ですからね。それはもう賭け事じゃない。
某氏 その話が、飲み会の席で当時の上司の耳に入りまして。この人が良く気のつく人で。それから次の日には商品企画をする部所に連れていかれて、企画段階の案件をいくつか見せられました。
——それが初仕事になるわけですね。
某氏 はい。いくつかの中で、私が直感的に一番ダメだ、と思った商品を選んだところ、それが後に発売され、大ヒット商品となるんです。
——それはどんな商品だったんでしょう。
某氏 えっと……すみません、それはいまや我が社の屋台骨を支えているものですので、ちょっと勘弁してください。商品名を挙げただけで我が社のことが特定出来てしまいますから。
——わかりました。でも、よく販売まで漕ぎ着けましたね。誰かがNOと言った商品を、売れると信じて販売するなんて、正気の沙汰とは思えません。
某氏 まあ、その商品の時は、同時に行っていた市場調査の結果が大変に良かったんですね。仮に私の判断や意見がどうあろうと、発売にゴーサインが出ていたはずですから。
——なるほど。家電メーカーの屋台骨を支えるような商品ですものね。では、それからずっとその判断をするお仕事をなさっているんですね。
某氏 はい。企画をする部の部長がユニークな人で、それを私の能力と認めてくれたんですね。
——そこから今のお仕事に従事されるようになったんですね。
某氏 そうです。口幅ったいようですけど、殆ど予想が当たりましたから……ん、予想が外れた、って言った方がいいのかな? 自分でも時々判らなくなるんです(笑)
——わかります(笑)では、それ以降、今に至るまで、98.7%の実力を発揮されていると。
某氏 いやいや、正式な仕事となると色々な人が関わってきますから、さすがに成功率は落ちましたけどね。
——しかし、正式なお仕事となると、缶コーヒーやランチを賭けていた頃とは比べ物にならない緊張感というか、重圧が凄いんじゃありませんか?
某氏 それはもう慣れましたね。
——慣れた。
某氏 はい。ヒット商品なんて、本当に一握りのものじゃないですか。ヒット商品をつくる法則を発見した、なんていう人、いままでに誰もいませんよね。
——時代によっても変わってきますしね。今年、通用している方法が来年も通用する保証はどこにもありませんしね。
某氏 その通りです。そう考えられるようになってから、ずいぶんと気持ちが楽になりました。たとえ外れたとしても……
——外してるのは俺ばっかりじゃねぇや、と。
某氏 ええ、まあ(笑) でも外した商品のは大抵、私の意見を取り入れないものですよ。
——98.7%を信用しない人がいるんですね。
某氏 信用しないというか、みんな、自分が発案したり開発した商品に自信を持っていますからね。どうしても押し通そうとするんです。
——それは私たちでも同じです。自分が企画した記事はやっぱり愛着が湧きますから。
某氏 で、またそういうものにかぎって、私の目にはすごく良いものに見えてしまうので、つい褒めちゃうんですよね。
——言われるほうにしてみたら悪魔の囁きだ(笑)
某氏 褒めちゃ駄目だと判ってても、つい褒めちゃうんで……。
——これまでに駄目だと判っていながら、つまりはあなたが褒めていながら販売にまでたどり着いてしまったものにはどんなものがありました? お答え出来る範囲で構いませんので。
某氏 我が社では殆どありませんが……あれはいまから5、6年前のことですが、携帯キャリアの某D社さんへ、社外からの協力という形で企画会議に参加したことがあるんです。我が社とも取引がありましたからね。
——どのような会議だったんでしょう。
某氏 当時発表された、iPhoneを取り扱うかどうか、という議題でした。
——うわあ!
某氏 私は絶対にやめるべきだ、と発言しました。私の目には、iPhoneが日本で受け入れられるとは映りませんでしたから。
——と、いうことは……。
某氏 大いに受け入れられる、ということですよね。
——ですよね。
某氏 これが我が社の会議であれば、一も二もなくiPhoneを採用、となったはずなんですが、そこは他社の悲しさというやつで、私の意見が受け入れられなかったんですね。あ、正しくは私の意見と反対の考えが採用されなかった、と、いうことなんですが。
——ちょっと混乱してきました(笑)
某氏 その会議には私以外にも、複数の同業他社さんが会議に参加されていたので、余計に私の意見が通り難かったんですね。結局、D社さんはiPhoneの取り扱いを見送る決定をしたんです。
——うーん、まあ、そうなっちゃうでしょうね。普通の会社の人にとっては、意見の逆を採用する、なんて発想は理解出来ないでしょうからね。
某氏 ええ。これが我が社の会議だったら、いったい私をなんだと思っているんた、と言ってやるところだったんですが。
——私が褒めたということはどういうことか、その意味を考えろ、と(笑) でもそれを他社のひとに理解させるのは難しいでしょうね。
某氏 まあ、そうでしょうね(笑)
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